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□学校
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「翠、どうしたの?」
俺の表情を伺う海里。

「…霊力が弱まっているだけだ」
荒い息遣いの俺は海里を見つめる。

「どうしたら戻る?」
海里は慌てた様子で聞いてくる。

「神社…、連れて行け」
気が狂いそうな程頭が痛い。

「わかった」
海里に支えてもらいながら神社に向かった。





「大丈夫?」
海里が俺の顔を覗き込む。

「だいぶ楽になった」
寝転がりながら海里に言う俺。

「良かった」
海里は安心したような顔をする。

「ありがとう、海里…」
海里の頭を撫でた。

「どういたしまして」
口元を緩める海里。


「外は霊力が弱すぎる」
俺は目を閉じて言う。

「そうなんだ」
海里が俺を見つめている。

「…お前には沢山の霊力が宿っている」
海里の手に触る。

「な、何?」
戸惑い気味に目を泳がせる海里。



「他の奴には気を許すな。俺だけを見ていろ」
そう言って海里に口付けをした。

「んんっ…」
俺の胸板を海里が叩く。

俺は海里の頭に手を回し、深く深くキスをする。

「ん…っ」
弱々しい海里の力。

少し唇を離してやった。


「は、あ、苦しい…」
荒々しい海里の息。

「可愛い」
再びキスをする。

「や、んっ」
海里の目には涙が浮かんでいる。





「…はぁ」
溜息をする俺の腕の中にはぐったりした海里の姿。

「っ…はあ、はあ」
苦しそうに息をしている海里。

「海里…」
海里の涙を拭った。

「何で急にこんな…っ」
海里は俺からぱっと離れて唇に触れる。何とも可愛らしい姿だ。

「俺を見ろ」
俺は海里を自分の方へ向かせた。


「何?」
涙目の海里が俺を見ている。

「俺以外を見るな」
海里の髪を撫でて言う。

「何、言って…」
目が泳いでいる海里。

「俺は……、俺はお前しか見てない」
海里を抱き寄せた。

「そ、そんな事言われても…」
俺に抱き寄せられて驚いているのか、随分と小声の海里。

「お前も俺を見ろよ」
ぎゅっと海里を抱き締める。






海里の心臓の音。

五月蝿いぐらいに鳴り響く。

小さな小さな音が鼓動を刻む。


こいつの霊力は俺の命を長らえさせる力がある。

触れるだけで力が流れ込む。心地いい霊力。

こいつの霊力は幾らでも溢れ出す。だから溢れ出す霊力に反応して獣たちが騒ぐ。

甘美な香りを放って獣を寄せ付ける。



「…翠、苦しい」
海里は俺の腕の中でもがく。

「ああ…すまない」
力を緩めた。

海里は抵抗を止めてへたり込んだ。


「さっきの…どういう意味?」
俺の胸板に顔を埋めて尋ねる海里。

「何でもない。気にするな」
笑って誤魔化す。

「それなら良いけどさ」
海里の手が俺の背中に回る。






「…日が暮れてきたな。霊力も回復したし、帰ろう」
海里を立ち上がらせる俺。

「うん」
俺から海里は離れて歩き出した。


夕焼け空が広がる。オレンジ色の空。焼け付くような色だ。




海里の隣を歩く。

少し小さな海里の身長。オレンジ色に染まる二つの影。


「今日の晩ご飯は何かなーっ」
ニコニコして歩く海里。

「楽しそうだな」
海里を見つめて歩いて行く。

「うん。俺、兄貴は嫌いだけど…兄貴が作る飯は好きなんだ」
海里は照れくさそうに言う。

「…そうか」
俺が海里の頭を撫でると、海里は頬を赤くさせた。



「ただいま」
小さく言う海里。

「お帰り海里…って、翠!?」
凌は俺を見て目を見張る。

「…何だ?」
チラッと凌を見た。

「今日も泊まんのか?俺は別にいいけどなっ♪」
やはり犬のように笑う凌。

「兄貴には関係ねーだろ。早く飯っ、腹ヘった」
そう言って海里は部屋に入って行く。



「翠、お前家はどこにあんの?家族とか心配してるんじゃ…」

「俺に居場所は無い。ずっと独りだ」
凌の言葉を遮って言った。

「そっ、か…」
眉尻を下げる凌。

「ああ」
俺は凌から目を反らす。

「じゃあずっと家にいろよ」
凌の言葉に瞬きを繰り返した。

「お前、何 言って…」

「行く所ないんだろ?家にいろよ」
凌の手が俺の頭を撫でた。


何だか目の奥の方が熱い。鼻の奥もツーンと痛い。




"家にいろよ"

そう言われて、認められた気がした。俺の存在を。
こんな事は一度も無かったのに。

とても 嬉しかった。
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