短編

□八つ当たりの理由
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***

ことの始まりはほんの一時間ほど前になる。
夜の僕は出入りを終えて、鴆の家に報告にきた。
お酒を飲もうとなんの連絡もなしにいつも通りに訪れた。

畏れを発動させたまま、庭に降り立ち、そのまま鴆君の部屋を覗きこんだ。

鴆君は夜の僕にまったく気づいてなくて何か作業をしていた。

夜の僕はそのまま驚かせようとして、後ろ姿に近づき、後ろから抱きしめた。

『誰だ!?』

驚いた鴆君が勢いよく手入れをしていた刀と共に振り返った。

まあ、後は予想通りの展開だよ。

***

「まだ痛むか?」

恐る恐る僕の腕に巻かれた包帯をみてくる。

実はそんなには痛くなかったけど、鴆君をちらっと見た視線は間違いなく睨んでいた。
睨まれて本当に申し訳なさそうに、鴆君は下を向いてる。

二人の間にいやな沈黙が訪れる。

「・・・なぁ・・今日なんか機嫌悪いのか?」

沈黙に耐えきれなかったんだろう、鴆君はそう尋ねてきた。

「・・・そりゃ悪いのは俺だが、そんな態度なんかおかしいだろ?・・・なんかあったのか?」

問いかけに黙ってると、恐る恐る本当に困惑したように尋ねてくる。

僕は夜の僕に重なるようにゆっくり息を吐いた。

「・・・・出入りに行ってきたんだ。」

僕の声にばっと勢いよく鴆君は顔を上げた。

・・・見慣れない妖怪がでたって聞いたんだ。
見たこともない妖怪がうちのシマで暴れてるって・・・だから、夜の僕は退治に出掛けたんだ。

行ってみると確かに見慣れない妖怪がいて、話が全然通じなかったんだ。
なんかこっちの言葉も全く通じてなかったみたいで向かってくるから、僕は説得をあきらめて祢々斬丸を構えた。

僕の畏れに飲まれ叩き斬られる瞬間、僕の耳に子供の声が聞こえたんだ。

小さな声で親を呼ぶ声が・・。

あっけなく、その妖怪は倒れた。

でも、僕はみてしまったんだ。身体が塵とかすその瞬間にその姿が人間の子供に変わったのを・・。

そのあと三羽烏から聞いた。あの妖怪が虐待された人間の子供のなれはてだと・・・
怨みをもって死んだ子は成仏できず、やがて怨みにとりつかれ妖怪とかす。

それを聞いて僕は混乱した。

僕は四分の三が人間で妖怪は悪いことばかりすると思ってた。
だけど、悪いことするはずの妖怪は人間がした悪いことの結果で・・自我を持てた妖怪は楽しそうで・・・。

たまたま僕の周りにはいなかっただけで人間にも悪いやつはいて・・。

妖怪と同じなのか、当たり前のことなのか・・。

考えたら気分が悪くなってきちゃって・・。

鴆君に会いに来たんだ。

「・・・酒、飲んだら落ち着くかと思ったんだ!だからてめぇと酒飲もうと思ったんだよ!」

訳を黙って聞いてくれた鴆君に、僕は苛ついた声のまま怒鳴った。

「・・・わかった。酒だな、いま用意する。」

そう答えた鴆君の声はどこか満足そうだった。
立ち上がり、お酒をとりに部屋を出ていこうとする鴆君はなんか笑ってるように見えた。

「・・・すまねぇ・・。」

その姿を見送る僕の口から小さな謝罪の言葉が漏れた。

「気にすんな。俺は全てお前のもんだからな八つ当たりの道具にだって喜んでなってやるよ。」

そう言って振り向いた鴆君の顔には笑みが浮かんでた。

(ごめんね。)

心のなかでもう一度呟く。

ごめんね。

ありがとう。

僕の大切な友達・・。

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