短編

□夏祭りの土産
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今日も暑い日だった。俺は1日中部屋にこもり、薬の調合をしていた。

夕方になり、調合が一段落ついたころ不意に電話が鳴り響いた。
画面に映しだされる着信名をみただけで、気分がよくなるのがわかった。

「もしもし、鴆君?今日具合どう?」

受話器から聞こえる幼さが残る相手の声を一言も危機漏らすまいと、受話器を耳にしっかりくっつけ俺は返事した。

「あぁ、今日は具合いいぜ!日中は部屋にいたから陽射しにもあたってねぇ!」
「なら良かった。今日六時にそっちいくから浴衣きて待ってて!」

安心したような声色が受話器から聞こえてくる。
意味はわからなかったけど俺は二つ返事で承諾した。
あいつの声がとても楽しそうに聞こえたからた。


「鴆!きたぞ!」

番頭が呼びにくる前に、凛とした声が屋敷に響いた。

「全く、せっかちだな。」

時計をみると6時前だった。
俺は苦笑しつつ部屋をでて足早に玄関に向かった。

「悪い、待たせた。随分早かったじゃないか。」

一応謝罪をのべつつ、一言言っておく。
だが、その言葉は我ながら威力が全くなかった。
来訪者が見慣れぬ浴衣をきて、ワクワクしているのが伝わってきたからだ。

敬愛するべき夜の主は黒地の紋に桜の柄がついた浴衣をきて、なんかすげぇ笑顔だった。
一瞬見とれた己に気付き軽く眼をそらす。

「よし、いくぞ鴆!」

どこにいくのかと尋ねる前に、身を翻し玄関をでていく背中を俺は慌てて追いかける。

「待てよ!おいてくんじゃねぇ!」

番頭や一派の奴等に見送られ、屋敷をでると振り向きもせずに歩いてると思ってた奴は歩調を落として待っていた。

「そう言うのも似合うじゃねぇか!鴆。」

軽く振り向き、ニヤッと本当に綺麗に笑って言ってくるから言葉を失う。

紺色に白い鳥の羽の模様、一派のものに言って用意してもらった浴衣だ。

「・・・あ、あぁ・・。なんか慣れねぇけどな。」

ありがととか、お前もなとか色々返事はあったはずなのに俺の口からでたのはそれだけだった。

罵詈雑言ならいくらでもでるのにこう言うとき動かない口が恨めしい。
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