短編
□思い出の落とし穴
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俺は足元の地面を見つめていた。
一部分だけ色が違うわかりやすすぎる。
溜め息をつき、辺りを見回す。
この罠を仕掛けた張本人の姿は見えないが多分どこかにいるんだろう。
こんなことに畏れを使うのはどうかと思うんだが、期待しているであろう張本人を思うと怒る気にならない。
だからと言ってわざわざ嵌まる気にもならない。
ガキの頃なら相手が笑ってくれるならとわざと落ちただろうが、流石にこの歳でそれはない。
俺は色が違う地面を避けて歩きだした。
ズボッ!ドサッ!
一瞬何が起きたかわからなかった。
とりあえず尻と背中が痛い。
「って!なんだ?」
見渡すと明らかに穴のなか・・。
遠い頭上に穴の入り口があった。
「・・・ひっかかった。ってかてめぇいい歳してこんなもんにひっかかっるなよ。」
呆れたきった声が頭上から聞こえた。
俺は穴を覗き込んでいる頭上の主を睨んだ。
「いい歳ってそれは俺の台詞だ!お前、ガキじゃあるまいしくだんないことすんな!」
一ヶ所だけ色が違う地面は罠で、俺は別に仕掛けられていた落とし穴にまんまと嵌まった。
「首なしもつららもひっかかんなかったのにな。」
そんな風に言われたらまるで俺が馬鹿みたいじゃないか。
「うるせぇ!ちょっと油断したんだ!ってお前まさか一人でこれ掘ったのかよ!どんだけ暇人だ!そんだけ暇があんなら今日の総会の下調べでもしろ!」
「うるせぇから埋めるか。」
イライラに任せて怒鳴ると、めんどくさそうな声が聞こえた。
「馬鹿!やめろ!リクオ!!」
焦って頭上に向かい怒鳴ると笑い声がかえってきた。
「冗談だ。早く上がってこい!」
横柄に命じられるが、俺は躊躇した。
「リクオ!縄くれないか!?」
「あ?飛べばすぐだろ?」
意味がわからなそうな顔を見上げつつ小さく舌打ちする。
「飛ぶのも体力いんだよ!縄で引っ張りあげてくれ!」
己の翼なのに飛ぶことさえままならないこの身体を知られたくなかった。
体力のないこの身体が忌々しい。