短編

□幻の敵
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その日、薬師一派の下っぱが本家に駆け込んできた。

『三代目!お願いします!鴆さまをお助けください!』

必死にすがりつかれたその言葉で僕は覚醒し、薬鴆堂に駆けつけた。


「死ね!」

怒り狂う鴆くんの羽根を僕は鏡花水月を使い避けた。

荒らされてボロボロになった部屋、毒の羽根や血が畳に広がっている。

「鴆、いい加減正気に戻れ。」

僕をみる鴆くんの瞳は正気じゃない。

赤く瞳は燃え、焦点もどこか合ってない。

番頭さんの話によるといつも通り、転た寝してたはずの鴆くんが起きたかと思うといきなり攻撃を始めたらしい。

駆けつけた時に微かに残った妖気に夢魔の類いだと予想できた。

多分なんか悪夢を見せられているんだろう。

うちのシマで鴆くんに手を出すとはいい度胸だとは思うが、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。

「・・・敵・・リクオの敵!死ね!!」

羽根だけでは駄目だと思ったのか、刀を抜き鴆くんが突っ込んできた。

咄嗟に夜の僕も刀を抜き、受け止める。

即座に再び刀を離し角度を変え打ち込んでくる。

手加減なしに打ち込んでくる刀を再び受け止める。

キン!キーンキン!

と刀を打ち合う音が響く。

「てめえ、なかなかやるじゃねぇか。俺に一太刀でもあびせられたら次の出入りに連れていってやるよ。」

渾身の力で降り下ろされ、顔面でなんとか受け止める。

軽くあたったらしく、頬から血が流れた。

「・・・頼む・・・リクオの為なんだ・・・死んでくれよ。」

正気はなくてもこちらの強さはわかったんだろう、懇願するように見つめられる。

必死の瞳に思わず、喉が鳴った。

「ったく、そそる目付きしやがってやっぱり出入りには連れていけねぇな!」

僕は刀を瞬時に持ち変え、鴆くんの刀を弾き飛ばした。
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