短編
□幼き日の相合傘
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僕は学校の玄関口で立ち尽くした。
先ほどまで晴れていたはずの空には灰色の雲が浮かび、結構大きい雨粒を降らす。
(置き傘しとけば良かった。)
いつも置いてあった置き傘は数日前にクラスメートに貸して未だ返ってきてない。 会うたび、忘れてたという顔をされるから覚えてはいるらしい。
委員会の為遅くなるからと先に帰らせたから今日にかぎって護衛もいない。
(やまないかな?)
そう思い雨が降り続く外をみる。
(仕方ない走るか。)
一向に止む様子のない雨に覚悟をきめ、玄関口を飛び出そうとした僕の眼に見慣れた人影が映った。
「鴆くん!?」
鴆くんは不自然なほど大きな傘の下をゆっくり歩いてくる。
よくみると傘は鴆くんの歩調に合わせて移動している。
「リクオ!迎えにきたぜ!」
僕に気づいたらしく鴆くんは片手をあげて合図を送ってくる。
傘まではまだ少し距離があったけど、僕はダッシュして傘の下に入った。
「鴆くんどうしたの?」
「薬の補給に本家に行ったらお前が雨降りだしたのにまだ帰って聞いたから迎えに来たんだ。駄目だったか?」
迷惑だったかと心配げに尋ねられ、首をふる。
「ううん、ありがとう。ただちょっとびっくりしただけ、これは鴆くんの一派のもの?」
学校をあとにして雨の中をゆっくり歩く。
柄を持たなくても、勝手に移動する普通の傘にしては大きいそれを指差す。
「ああ、俺がガキの時からずっといるやつだ。リクオも昔見たことあったろ?」
ピョンピョンと柄からはえた足で地面を飛びはねながら、傘は僕達を濡らさないように気をくばっている。
その様子をしばらくみつつ幼い日の思い出を考える。
「あ、思い出した。いつだったか幼稚園に迎えにきてくれたときにいたね。」
幼い日、不意の雨の中鴆くんが迎えにきてくれた。
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『鴆くん!?どうして?』
予想外の嬉しいお迎えに子供だった僕は走り寄った。
『今日は総会だから親父に連れてきてもらったんだ。』
嬉しげに笑いかけられ、笑い返す。
『ねぇ、手繋ごう!』
断られることなど考えずぎゅっと鴆くんの片手を掴み、笑う。
『鴆くんこれなに?』