未来編

□一言芳恩
1ページ/5ページ

待ち望んだ気配に眼を覚ます。

寝ていたと言うわけではないが、意識を失っていたらしい。

「悪い、寝てた。」

言いながら首だけで辺りを見回す。

汚れた布団は綺麗になっていて、部屋の空気も入れ替えられている。

ほのかに香る花の匂いはお香だろう。

少し甘い匂いが部屋に立ち込めている。

「ううん、起こしちゃったね。ただいま、鴆くん。」

にっこりと笑みを浮かべ、嬉しそうに言ったリクオに微笑み返す。

「おかえりリクオ。」

待ってると言った約束を守れた。

それだけで安心する。

「修学旅行楽しかったか?」

「楽しかったよ。写真も沢山とったからできたら見せるね?」

「ああ、楽しみにしてる。」

本当は喋るのもつらい・・。

息をするのもままならないぐらいだ。

かすれるような声しかでない。

こんな声じゃ聞いていて不快じゃないかと不安になる。

でもリクオは話かけてくれる。

だから必死に答えを返す。

かけてくれることが嬉しいから・・・。

「鴆くんはどうしてた?僕がいなくて大丈夫だった?」

「・・・寂しかった。リクオがいなくて不安だったけど朱意がいてくれたから大丈夫だ。」

昔なら強がって言わなかった言葉を言う。

こんな事を言ったら優しいリクオは気にしてしまうかもしれないといつも不安になる。

だが、それは余計な考えらしい。

隠すなとリクオに怒られたから・・。

弱味を見せろと言われたから・・・。

大人になったリクオに自分の不安をあかす。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ