真実を告げし者

□第零話
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 暗く閉ざされた部屋の中、一匹のドラゴンが横たわっていた。彼女はもう、息をしているのかさえわからぬほどに衰弱していた。ところどころに怪我を負って弱っているのである。

 彼女は少し前に欲望に塗れた人間の手によって捕らえられた。捕らえられる前に卵を残していたので、自身の身体は弱っていたが、卵は何とか隠した。そして、彼等の目当てであった、ドラゴンの卵は彼等の手には渡らなかったのである。

 しかし、傷付いた彼女には、もうあまり時間が残されていなかった。自分の卵がいつ彼等に見つかってもおかしくはないその状況で、彼女はいつも、卵から生まれてくるであろう我が子の夢を見た。

 捕らえられて幾日か経った或る日の夜、彼女は、卵が割れてそこから息子が生まれてくる、という予知夢を見た。彼は人間の姿形をしていた。そう、その卵は何千年かに一度生まれてくるドラゴンからしか生まれない、特別な卵なのである。

 彼女には他にも男の子どもがいた。しかし、彼女の意志を継ぐ者はいなかった。光族のドラゴンは、生まれてくる子どもが全員光を操れるようになるわけではなく、その中で一匹だけなのである。その一匹が生まれてくる卵だけは、他のドラゴン卵とは色が違い、鮮やかな緑色だった。その事を欲深き人間達は知っている。

 生まれてくる子の兄弟が自分の弟である卵を見つけるのが先か、人間が拾ってしまうのが先か…。彼女はただひたすら生まれてくる子の兄が彼を拾う事を願っていた。

 そして…、願いながら逝った。

 彼女の身体は、人間達により冷凍保存されることになった。その後、人間達はどれ程探しても、光のドラゴンの卵を見つけることは出来なかった。

 卵を見つけたのは、彼の兄だった。兄はすぐに自分の弟だと気付き、大事そうに持って帰った。家には、人間に化けている父親のドラゴンがいた。彼の兄と父は、母親に何かあった事をすぐに悟った。光族のドラゴンは、基本的に卵が孵るまでその場を動かない。そして元気に子どもが生まれると、人間の姿に化けて赤ん坊を抱いて戻ってくるのである。それなのに、未だ孵らぬ卵を兄は見つけた。母は死んだと、気付きながらも涙を堪え、卵を家へと運んだ。

 光のドラゴンの卵は、通常の卵よりも孵るのが遅かった。その為、母は他にも卵を何処かに残しているはずだった。四年程卵の傍にいたが、家に戻ってこないわけではなかったのである。もうそろそろ孵るはずの卵を見つめ、兄は他の卵も見つけねばならないと決心した。

 しかし、他の卵はまだうまれたばかりで後二年は孵らない。その上、誰も温めていないとなると、どうなるかわからない。一度に生まれるのは二個までで、今までに兄が母に会った時は一個も無かったので、生んだような事を言っていた時から数えると、最高でも二個だった。

 兄はこの時、齢四つになるばかりの子であった為、父は探しに行く事を許してはくれなかった。目の前にいる、弟が孵って、二年するともうその卵達も孵る頃だろうから二年後に自分が行ってくる、と父は言った。

 ただ、兄は心配だった。もし母が何かによって殺されていたとすれば、父が卵を探しに出るのは死にに行くようなものだからである。その為に、つい行かないで欲しいと言ってしまった。自分が大きくなってからにしてくれ、と兄は父に頼んだ。

 父は安心したように、零とこの子が大きくなるまで遠くへ行ったりたりはしないよ、と言った。しかし、その誓いは後に破らされる事となる。

 兄は名を零とつけられていた。卵から弟が生まれてくると零は、名を自分がつけたい、と言った。父がどういうものにしたのか尋ねると、零は「しゅんや」が良い、と言った。父はその通りに命名し、光のドラゴンの名は舜夜となった。

 これが、この物語の主人公となり、運命を紡いでいく少年、舜夜である。




 

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