□放課後に甘い接吻を【3Z,銀猿】
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面倒くさがりの銀八先生が放課後

ここで一杯
極上のコーヒーを淹れるのもまた、

私のサプライズと同じように
彼の日課だった。


男らしい手で

ダイナミックにキリマンジャロ豆を挽いて

フィルターに移した瞬間に立ち上る香り。

お湯がコポコポと
マグカップを満たしていく音。



この瞬間、

国語資料室は
先生と私だけの空間になる。


あんなにだらしない先生が
こんなこだわりを持っているなんて、

私しか知らない秘密だろう。



先生は湯気の立つカップを持って

窓際の机に移動した。


私からは先生が見えなくなってしまった。



コーヒーを冷ましながら啜る。

そんな気配だけが感じられる。


何か言って気を引きたいけれど
先生のこのブレイクタイムを壊したくはない。


私だって

それぐらいの空気は読める女なんだから。





そのうち足音がして

先生が本棚と壁の隙間の向こうに現れた。



「猿飛。

 残念なんだけどさ、この棚

金具で留まっちゃってるわけよ。


これ…やるから、
ちょっと自力で頑張ってくんない


俺、お前らの期末の採点しなきゃなんねーんだ」



先生が隙間の向こうから
差し出してきたのは、ポッキー。


私は身動きができないので

当然「あーん」をしてもらう形になる。




やだ…。

こんなのって



正真正銘恋人同士じゃないのォォォ!!!



「いらねえか?」



銀八先生は躊躇する私を見て
手を引っ込めようとした。


「え、

ちょっと待ってよ!!

は、花も恥じらうお年頃なんだから」



私がそう言い返したときには、

銀八先生のまわりのオーラが
ピンク色に染まり始めていた。



「しかたねーな、ホラ…

銀さん端っこおさえててやるから

早くしろよさっちゃん」



先生はおもむろに

ポッキーの
チョコレートの付いていない部分を口にくわえた。



銀八先生の整った顔が一気に近くなる。


その途端


私の鼓動はいよいよ暴走を始めた。



ああ、

これってもしかして

もしかしなくても






ポッキーゲーム?!






「銀さん…
私たちやっと一つになれるのね」


自分の声さえ遠く聞こえて

私は目を閉じて


ポッキーをもう片方からかじっていった。




ああ




この距離さえ、この時間さえ

もどかしいよ銀八先生…!!!



昇天寸前で、

固いものに私の唇が当たった。



銀さんてば、意外と唇固いのね!




「……って、えぇぇぇぇ?!?!」



私の鼻の先には



桂くんのあの白いトリ。

無表情で大きな目を見開いたまま、

私とくちばしを重ねているではないか!!!





何?






何何何何何が起きたの?!?!?!?


頭が真っ白になる。



「エリーよぉ。

お前も何か言って入ってこいよ。

黙ってちゃわかんねーだろーが」


「・・・。」


「あ…そっか
おめーは筆談オンリーだもんな、

俺が悪かった!

ところで猿飛


お前エリー相手に悶えすぎじゃねぇ…?

コイツが好きだったのかぁ。

あ、先生、

このことは皆には黙っとくから♪」



視界に入らない机のほうから

ゆる〜い銀八先生の声。



面白がっているのが顔を見なくてもわかる。




「いっ・・・
いやぁあぁぁぁあぁぁぁ!!!!!!!!!!!」



私は絶叫し、
エリザベスに見つめられたまま

本棚の裏で気を失った。



――end――

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