□除夜の鐘【兄神】
2ページ/4ページ


その間にも鐘は低く優しく、響き続ける。


ふと、

俺の耳に聞きなれた声が入ってきた。


俺よりもっとひどい中国なまりの
懐かしく幼い声。



声の主は、見なくてもわかった。



向こうも俺に気付いたらしく、

「あ…」と小さく声を上げた。


隣には
着流しにマフラーを巻いた栗色の髪の少年。

そして後ろから目つきの鋭い青年、
合体のいい男、眼鏡の少年、

それにいつかの銀髪のお侍さんもいる。



前に江戸に来た時にも見たような、

初対面のような。




アイツは
俺のこと知らんぷりするだろうな。



だってアイツは俺のことが嫌いだから。



別に、俺だって
弱っちいやつには興味ないし。




そう思ったのに
アイツはこっちに向かって歩いてきた。




「おいチャイナ、やめときなせェ」




利発そうな栗髪の少年が
止めたようだったが、

神楽はもう声をかけてきてた。




「オイ、馬鹿兄貴」




挑むような視線。




「何たくらんでるアルか?


もしここにいる人たちを犠牲に、

何かしようなんて思ってたら許さないネ」



神楽が俺に
話しかけてきたことは驚きだったが

その内容に俺は吹き出してしまった。



「ぷっ!!



何言ってるの?

今夜はそんな気分じゃないんだよね。


喧嘩なら買わないから、
どっか行ってくれないかな」


つい、冷たい言葉が口をついて出る。



「それに俺が何かたくらんでいたとして

お前が俺を止められる訳ないヨ」



神楽の表情が屈辱に歪んだ。

唇をぎゅっと噛んで、耐えているのだろう。



ここで
連中の所に戻っていくものだと思った。


向こうで奴らが心配そうに
こちらを窺ってる。



しかし神楽は俺と肩を並べた。





――えっ。





一瞬動揺してしまった。

妹なのに、わからない。


兄妹だなんて呼べるほど

神楽と分かち合っているものは何もない。



今になってそう気付いた。



神楽も同じなのか、
さっき俺がしていたように空を仰いだ。





「マミーが言ってたヨ。

子供たちは、
元気に育ってくれるだけでいいって。



でも最期まで、

元気に育ちすぎた馬鹿息子の姿は
見れず終いだったアル。」









「そういうお涙頂戴な話は
願い下げなんだよなぁ。

めんどくさい」



「……。」




「…で、実際お前は何しに来たアルか」



あくまで俺の挑発に乗らないように

努めながら、話題を変えてくる神楽。



何で今日は俺と喋るんだろうコイツ。



「何って?八十八の煩悩を祓いに♪」




「はッ、

好き勝手自分勝手に生きてる神威に
煩悩なんて、仏も聞いて呆れるネ」



……かわいくねー奴。

クールぶってやんの。


昔は何かあるとすぐに泣いて

「にーちゃぁぁん」なんて
しがみついてきたのにさ。



せっかく平和的に年越ししようって
気になってるのに。




そんなこんなで
棘々した会話をしつつ、


鐘台まで俺たちの順番がきていた。



鐘つき棒なんて

俺達夜兎には必要ないけど。



今夜はなんだか特別な夜みたいだから―――




「先にやりなよ」





俺が綱を持って渡した棒を、
神楽は無表情で、むんずとむしり取った。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ