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□子供と恋
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サワサワと春のあたたかさが広がる飛鳥時代。

いつも冬の時に会いに行ってたけど、今日はちょっと変えてみた。

理由はただの気まぐれ。

でも、春に来て本当に良かった。

機械的な物が1つもない飛鳥時代はすごく空気がおいしくて、景色が綺麗。

星も見てみたいから、今度泊まりに来ちゃおうかな!


でも…


「入鹿さん、どうしたの?今日はすごい落ち込んでるみたいだけど…」

入鹿さんが今日は何故かぼーっとして、空を見ている。

そして、ため息を深くついてはもぞもぞ動いてて、明らかにおかしい。


「ん…お前に教えるのは10年早い」

そう言うと草の上に横にな
り、僕から顔を背けてしまった。

「ねー、おしえてよー。秘密は無しって約束したじゃんー」

「そんな約束したか?」

「今作った」

オイ!と大声で言うも、やれやれと言いながら結局話してくれる入鹿さん。

優しいなぁ。お兄ちゃんとかに欲しい。

「あのね、オレにはヨメさんが居るの」

「うん」

「でも、親とかじーちゃんが勝手に決めたヨメさんだから、オレは全然好きじゃないの」

「うん」

「で、最近そのヨメさんからね、子供を作ろうって言われたんだけど…」

そこで入鹿さんの言葉がつまる。

気まずそうに目をそらして次に最善だと思われる言葉を探している。

大丈夫、うっすら分かるよ。

「…ま、まぁ、オレはそのヨメさんと子供つくるのが嫌なの!」

今何かを誤魔化したよね。

「子供、欲しくないの?」

「子供は欲しいけど…」


ふうん、へぇ。


「なんだー、そんな事かー」

僕も草の上に横なり、横に並ぶ。

「そんな事って…!」

「僕もね、彼女居るから分かるよ。2つ歳上の人で、いつも無理矢理ちゅーとか、デートとかされるからだいっきらい」

僕は何を話してるんだろう。

入鹿さんは目を丸くしてる。

「別れないのか?子供同士の恋なんて直ぐに止められるもんじゃ…」

「彼女にね、別れて下さいって言ったときすごく大げさに泣かれて、相手の親に訳の分からないまま殴られた。……別れられないよ」


2人そろって、大きなため息。


でもね、入鹿さんと居るとすごく落ち着くんだ。

現実逃避って言うのかな?元の時代に居るときよりも、何百倍も楽。


「恋人の定義って…何だろうな……」

ぽつりと呟く入鹿さん。

知らない、分からないけど…

なんとなく、僕達の今の恋人が定義のうちに入らないなって思った。


春の風がザァァッと吹く。


その臭いは甘くて切なくて…


「ねぇ、入鹿さん」

「おう?」

「僕と“ふりん”しよっか?」

「ははっ、それもいいかもな!」


冗談だと思って笑っている入鹿さんの手を強く握り、胸元に顔を埋めた。

すごく良い香りだ。

それと同時に、息が出来ないほどの切なさが襲う。

「た…いち…?」

涙が目から落ちて、入鹿さんの服を濡らす。

とても悲しいのに、とても安心する。

ただ抱き締めただけなのに泣くなんて自分でもびっくりだ。

悲しい事なんて何も無いのに。


「わーっ!泣くな!いい子だから!」


体を起こして僕を足に乗せ、ぎゅっと抱き締められる。

頭を撫でるのはすごく大きな手。

それでも、僕は腕を緩めない。

僕が離したら、入鹿さんも離してしまいそうで怖い。

さっきまでは普通だったのに、気持ちが溢れる。


溢れて溢れて、止められなくなった。


「いるかさんっ…!」


僕は顔を上げて、すぐに自分の唇を目の前の大人の唇に押しつけた。









皐月様ありがとうございました!!

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