gift/ss
□結局はお互いを好きなだけ
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久しぶりに熱を出した。
頭がくらくらする。
ああ、風邪ってこういうものだっけ、なんて思う。
「緑川、具合はどう?」
こんなふうに笑う君を独占できるならたまにはこういうのも悪くないかもしれない。
「珍しいね、風邪引くなんて」
ヒロトはふふ、と声をあげた。なんだかうれしそうだ。
「懐かしいね、昔、俺が熱があって寝てたとき、緑川がずっと看病してくれてたよね」
その言葉に、ふと幼い頃の記憶が引っ張りだされた。
ヒロトは体が弱かった。だからよく熱を出して、お日さま園のベッドに横になっていた。元々ヒロトはみんなと進んで遊ぶ子じゃなかったけど、なんとなく俺はほっとけなくて、遊びもしないでヒロトの側にいた。
ヒロトはただ無表情で寄り添う俺を見つめていた。
あの頃、ヒロトはずっと無表情だったなあ。ただ、目だけはどこか悲しそうで寂しそうで。
俺はずっと分かりたかったんだ。多分。
お前が何を思っているのか。
「どうしたの、緑川?」
ヒロトの声で引き戻される。昔のことを思い出してぼーっとしてしまったようだった。
ヒロトは首を傾げて困ったような顔をしている。
ヒロトは変わった。
感情が素直に表情に出るようになった。
笑ったり、困ったり、泣いたり、喜んだり、たまに怒ったり。
ヒロトをずっと見ていたい、と思うのは昔からだけど、
「緑川、なんか飲み物持ってくるね」
「ヒロト」
部屋から出ていこうとしたヒロトの名前を呼ぶ。起き上がって、俺のほうを振り返ったヒロトを手招きした。
「どうしたの緑川……わっ!?」
近づいてきたヒロトの腕をぐいっと引くと、ヒロトは簡単に腕の中に倒れこんできた。
「えっ、なに!?緑川?」
ヒロトは慌てた声を上げた。
抱きしめたヒロトの身体は思っていたより細くて、ひんやりしていた。
風邪を引いているせいでいつもより高い体温の俺には心地よかった。
「ど、どうしたの………!?」
「ヒロト、」
ヒロトの周りには沢山の人がいる。
俺の存在なんて、特別なものじゃなくていいんだ。
でも、
「そばにいさせてよ」
君が日々笑って、泣いて、怒って、喜び、生きている傍に居たいんだ。
そんなの俺も一緒だよ、なんて声が微かに聞こえたような気がした。