幕恋短編集 慎太郎編
□恋ごころ
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「よく降るなぁ…」
水を張った桶を運びながら私は外を眺めた。
3日前から降りだした雨は未だやむこともなく、降り続いてる。
「もう、そろそろ止んでもいいのに…」
分厚い雲に隠れた太陽が恋しくなる。
本当なら今日は慎ちゃんと街を見て歩くはずだったのにな…
3日前…
よく晴れているのに雨が降りそうだからと傘を持って出かけた慎ちゃん。
お昼を回って、慎ちゃんが言った通り雨がポツポツと降りだし、雨の勢いが強くなりだした夕暮れ時にびしょ濡れになって慎ちゃんは帰ってきた。
持ってでたはずの傘はその手にはなく、聞いてみると帰りの道で小さな子が雨にうたれながら歩いていたので傘を譲ったって…
慎ちゃんらしい…
でも、その雨にうたれたせいで慎ちゃんは風邪をひいてダウンしてしまった。
昨日から寝込んでいる。
熱も高くてうなされてたけど、今日になって少し熱が下がってきた。
体中が痛くてあまり動けないみたいだけど…
今日はみんな出かけているから、私が慎ちゃんのお世話を任された。
慎ちゃんの部屋の前で止まり、気合いを入れる。
しっかりお世話しなくちゃ!
「慎ちゃん、入るね。」
そう言って襖をあけると、布団に寝ていた慎ちゃんは顔だけこちらに向けた。
「姉さん、迷惑かけてすまないッス…」
「ううん。全然!ってゆうかそのセリフ、昔のコントみたい(笑)」
「せりふ?…こ、こんと?」
「あ、ううん、気にしないで体の方はどうかな?」
私は慎ちゃんの横にすわり、慎ちゃんの顔を水に浸して絞った手拭いで拭きながら尋ねる。
「だいぶいいです。ありがとうございます。」
「本当?良かった。私にできることあったら何でも言ってね。」
「………」
「慎ちゃん?」
「じゃあ…
少しの間…
そばにいて貰ってもいいっすか?」
「うん。いいよ。」
「ありがとうございます。」
そういって少し笑顔を見せると慎ちゃんは目を閉じた。
慎ちゃんの額に手を当てる。
まだ熱が高いな…
額に絞った手拭いをのせた後、私は慎ちゃんの頭を優しく撫ではじめた。
「気持ちいい…」
「でしょ?私が子供の頃、熱出して寝込むとお母さんがよくやってくれたんだ。」
「そうっすか…」
「うん。」
「………」
「慎ちゃん?」
「姉さん…俺…」
「うん?」
「……ちゃんと姉さんを、もとの世界へ戻してあげますからね。」
「…………。」
胸の奥がチクッとした。
悲しくなった。
何?この気持ち?
「そ、そんな事より風邪早く治して元気になってくれなくちゃ!
ねぇ?お腹すかない?
何か作ってくるね」
「姉さん?」
胸に生じた気持ちがよくわからなくて、慌てて慎ちゃんの部屋を出た。