幕恋短編集 慎太郎編

□撫子2
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手折られるならあなたがいい…。

そう、姉さんに告げられて、俺は夢じゃないかと思った。
その言葉の真意を確かめるために、問いを投げかけ見つめると、頬を桜色に染めながら、花のような笑顔を浮かべて、姉さんは頷いた。
たまらなくなって、俺は姉さんを引き寄せ、抱きしめる。

「…どうなっても、知らないっすよ?」

耳元に囁くと、姉さんが少し身体を揺らせた後、俺の背に回した手で着物をキュッと握った。
その瞬間、今まで抑えこんでいた姉さんへの想いが一気に溢れだした。

今すぐ、姉さんが欲しい…。

俺は姉さんの手を引いて、はやる気持ちを抑えきれず、早足で行きつけの料亭に向かう。

早く…!
早く…‼︎

ここから、そう遠くは離れてない料亭までの道のりが、もの凄く長く感じた。

こんなに遠かっただろうか…。

料亭までの道のりが、もどかしくて、もどかしくて、たまらなかった。

全く余裕のなくなっている自分に、苦笑する。

漸く、料亭の看板が見えてくると、俺は更に足を早めた。
料亭に入り、女将と一言、二言、言葉を交わすと、奥の階段を登り、二階の部屋に案内された。
女将が下がって、襖を締めると俺は二間続きの奥の部屋の襖を開けた。
その部屋には、一組の布団がひいてあり、枕が二つ置いてある。
少し息の上がってる姉さんを部屋に入れ、襖を締めると、俺は姉さんを力いっぱい抱きしめた。
応えるように、姉さんが俺の背に手を回す。
そして、お互いの目を見つめ合うと、どちらともなく近づき、唇を重ねた。
姉さんの唇の柔らかさを確かめるように啄ばみ、形を確かめるように舌でなぞる。
薄く開いた姉さんの上唇と下唇の隙間から、舌を滑り込ませると、姉さんの体がビクンと反応した。
歯列を丁寧になぞり、捕らえるように舌を絡ませると、ぎこちない舌の動きが、いじらしくて、もっと口の中を蹂躙していく。
耳に響く甘い吐息と嬌声、水音が更に俺の気持ちを高ぶらせる。

「姉さん…。いいですか?」

唇を解放して、姉さんの潤んだ瞳を見つめながら尋ねると、コクンとひとつ頷いた。
姉さんを布団にゆっくりと横たえ、覆い被さる。
目を合わせると、姉さんがそっと瞼を閉じた。

「姉さん…。」

焦がれてきたあなたと、俺は今…。

ゆっくりと唇を近づけてゆく…。










「ぐぅ〜。」











部屋に大きく響いたその音に、目を見開くと、姉さんの顔がみるみる真っ赤になり、手で顔を覆い隠し、

「あっ、あっ、あっ….、ご…、ご、ごめんなさい‼︎こんな時に、私ってば、私ってば…‼︎」

泣きそうな声で言った。

姉さんの肩が小刻みに震えている。
その様子が、可愛らしくて、口元が緩む。
さっきまでの姉さんを求めていた荒々しい感情が、穏やかなものへと変わっていく。

「姉さん。顔…、見せて下さい。」

そう言うと、姉さんは顔を隠していた手を少しずらして、怯えた小動物のような目で俺を見た。

「あ、呆れたよね?こんな時に、お腹鳴らす女の子なんて…。」

いたたまれなくなったのか、それだけ言うと姉さんは、また、顔を隠してしまった。
そんな仕草も、愛しくてたまらない。
俺は姉さんの額に、そっと口づけを落とした。

「大丈夫ですよ。俺はどんな姉さんも、大好きですから‼︎」

そう言うと、顔を覆っていた手をのけて、俺の顔を見た姉さんは照れたように笑った。
俺はそのまま、姉さんを腕の中に優しく包みこむと、一緒に横になった。
柔らかい温もりが、俺の心を温かくする。

腕の中の姉さんが、おずおずと俺に声をかけてきた。

「あ、あの…、し、慎ちゃん?
…、し、し、しな…い…の…?」

「最初は、そのつもりだったんですけど…。」

応えながら、姉さんを更にキュッと抱きしめる。

「今は、こうして姉さんを抱きしめてるだけで幸せです。」

「し、慎ちゃん…。」

そう言うと、姉さんは俺の胸にすり寄ってきた。
姉さんの髪を、そっと撫でると、姉さんは俺の顔を見て、フワリと笑った。
ただ俺の隣で、姉さんが嬉しそうに笑ってくれる。
それだけで、心が満たされていく。
何もしなくても、俺は姉さんと繋がる事ができたんだと感じた。
胸に広がった、温かくて穏やかな気持ちと、腕の中の温もりが眠りを誘う。




姉さんは、俺だけの撫子です

姉さんの笑顔は、俺が守ります

だから、いつまでも俺の隣で笑っていて下さい


姉さん…

愛してます…。


姉さんの耳元にそう囁くように告げると、俺は誘われるまま、眠りに落ちていった。





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