幕恋短編集 武市編

□雨音のうた
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雨の昼下がり

私は、お茶を武市さんに運ぶようにおかみさんに言われて武市さんの部屋にきた。

「武市さん、お茶持ってきましたよ。入りますね。」

襖をあけると、武市さんは窓際で目をつぶって座っていた。

「武市さん?」

「シッ!静かに…
雨音の奏でる歌を聴いてるんだ…」

そう言って唇に指をあてると、優しく微笑んだ。

「キミも一緒に聴く?」

「はい!」

私は、持ってきたお茶を文机に置いた。

「おいで…」


差し出されたその手をとると、私は広い胸に優しく包みこまれた。

温かい…

武市さんの胸に耳を押し当てると、力強い鼓動が聞こえた

こうしてるとまるで…

「ふふふ…」

「どうしたの?」

「なんでもないです。」

「そう?」

「雨音の歌、聴きましょ?」

「そうだね。」

私は体の向きをかえて、武市さんの胸に背を預けた。

静寂の中、雨音だけが響く

温かくて大きな手が私の頭を優しく撫でる


心地よい温もり
雨音の歌
優しい手


私はだんだんと眠くなってきてしまった


「ふぁぁ…

…………

!!

ご、ごめんなさい!」


思わず出てしまった欠伸に慌ててしまう。

「クスクス…
実に君らしいね。趣がない。
クスクス…」

可笑しそうに武市さんが笑っている。

「私らしいって…っていうか、そんなに笑わなくても


「クスクス…
ごめん、ごめん。」

「……どうせ趣がないですよ、私は…」

「そうだね。クスクス…」

「!!

もういいです!」


そう言って立ち上がろうとすると、武市さんは腕の力を強め私をとじこめた。

「な!?は、離してください!」

「何故?」

「な、何故?って…そ、その…」

「どうして?」

「どうして?って…
……………
もういいです…」

私は観念して囲いの中でおとなしくした

雨音の歌に耳を傾ける

そう言えば昔、同じように一緒に雨音を聴いたなぁ…
元気かなぁ…



お父さん…





















「空が明るくなってきた。
そろそろ雨音の奏でる歌も終わりだね。」


「うん、そうだね!
お父さん!!」


「!!
…お、お父……さ…ん…?」

「え!?あっ!ち、違うんですっそ、その


「ブッ、ギャハハハ!」

「!?」

大笑いの主の方を振り向くと龍馬さんがお腹を抱えて笑っていた

「りょ、龍馬!?」

「お…お父さん…お父さん………
ブッ、クックック…
こりゃあ、たまるか!
お父さんっ!」

「……………………」


「愛しい思い人にお父さん呼ばわりされるとは……クックック…」


「えっ!?///い、愛しい思い人って……えっ!?


「/////、龍馬ぁぁぁっつ!!!


「!!!」



真っ赤な顔の鬼が寺田屋の中で暴れまわったのは、雨上がりの空に虹のかかった皐月の終わる頃…







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