幕恋短編集以蔵編
□さくら
1ページ/3ページ
昨日おかみさんにおつかいをたのまれた時に、寄り道して桜の木を見つけた。
桜は満開でとても綺麗だった。
以蔵と二人でみたいな…
でも今は…
みんな忙しそうで、昨日から寺田屋に帰ってきてない。
それにもし帰ってきてたとしても、私の我が儘で迷惑をかけるわけにはいかないよね…
そう思いなおして、寺田屋に戻ると以蔵がちょうど帰ってきたところだった。
「おかえりなさい。お疲れ様。」
「ああ。」
「あれ、みんなは?」
「まだ話が長くなりそうなんでな、俺だけ帰ってきた。」
「そうなんだ。」
「ほら、もう中に入れ。」
以蔵があたりに気を配りながら言う。
「あ、ごめん。」
そうだよね。こんなとこで立ち話なんかしてる場合じゃないよね。
ちゃんとわかっているつもりでいても私には危機感がまだまだ欠けているな…
夕餉の時間…
以蔵と二人きり…
言葉もなくて二人で黙々と食べる。
せっかく二人きりなんだから何か話をしたいんだけど頭に浮かぶのは桜の事ばかり…
もう、私の馬鹿
ぐるぐる考えていると、以蔵が口を開いた。
「言いたい事があるなら、さっさと言え。」
「えにゃ、にゃにもにゃいよ」
急に言われたので噛んだうえに声が裏返ってしまった。恥ずかしい///
以蔵はこっちを見て一瞬固まってたけど、顔を崩して笑い出した。
「ぶっ、クックック…
にゃ、にゃにもっておまえ…
アハハハ」
余程、ツボだったのか以蔵は涙目になりながら笑い続ける。
「そ、そんな笑わなくたっていいじゃん
もう以蔵のバカっ
以蔵なんか、こうしてやるんだから」
そう言って私は味噌汁の具の人参を以蔵のお椀に入れていく。
「ばっ、馬鹿っよせ葵っ」
慌てて私の両手を掴む以蔵。
「離してよ」
むくれながらケンカ腰に言う。
「あのなぁ、おまえが笑わせるような事言うからだろ?」
「だ、だって…、わざとじゃないもん」
以蔵の意地悪
うつむいて黙り込む。