幕恋短編集以蔵編

□雨のち晴れ
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今にも泣き出しそうな空

まるで私の心みたい


いつからだろう…


気がつけばあなたの大きな背中をさがしてた


時折見せてくれるようになった笑顔に胸がキュッとなった


初めはそれがなんなのかわからなかった


でも、気づいたの



私はあなたをアイシテル


あなたの抱えてる苦悩も闇も私には理解できないよね…

でも私はあなたと一緒にそれを抱えていきたい

あなたと一緒にこれから先も歩いていきたい

わかってる…

そう思うのは私の勝手
あなたにとって重荷でしかない

わかってるのに…

望んでしまった

あなたと二人で笑いあう未来を…



「いい加減にしろ!
そんな話はするな!」



冷たい視線
聞いたことない低くて鋭い声


そして背を向けたあなた



「……ごめんなさい…」


私はその場から逃げるように離れた。





空が泣き出した


雨が頬に伝わる雫を一緒に流してくれる

大丈夫…

やまない雨はない
雨がやんだらお日様が顔を覗かせる
この雨がやんだら、いつも通りの笑顔の私で…


大丈夫…


きっといつも通りに笑って…


笑って…


笑って?


どうやって笑ってったっけ?


思い出せないよ…



「……ック、…ヒック、…

以蔵…

…………」



行くあてもない迷い子のように佇む


私は拒絶されたんだ…


降り注ぐ雨が身体も心も冷やしていく…


寺田屋にはもう戻れない…


どうしよう…



……………。

とりあえず高杉さんと桂さんのところに…

そう思って歩をすすめようとした時、


『グィッ』


不意に腕をひかれたかと思うと温もりを背中に感じて、私の大好きなお日さまの匂いがした。


「……以…蔵…?」


おそるおそる名前を呼んでみる。


「馬鹿!こんなに身体が冷えてるじゃないか!風邪でもひいたらどうする!?」


「…ご、ごめんなさい…」


どうしたらいいのかわかんないよ…



「違う…」


「え?」


「馬鹿は俺だ…。すまん…」


消えいりそうな小さな声で話すあなた。


「なんで?なんで謝るの?」


あなたの気持ちを考えずに求めた私がいけないのに…



「本当は嬉しかったんだ…」

「え?」

「俺もお前と一緒にいたい…。」

「……ホントに?」


夢じゃないよね?
でもあなたはこう続けた。


「あぁ。だが、俺はあまりにも多くの人の命を、未来を奪いすぎた。」

「………」

「その罪は一生消えない。消してはならん。」

「……」

「俺はその罪を死ぬまで背負っていかねばならん。そんな俺にお前の未来を、笑顔を守るのは無理だ…。」


私の肩に額を押し当てて、子供みたいに泣き出しそうな声で…



「…違うよ。以蔵…」

「?」

「私の笑顔は以蔵にしか守れないんだよ?」

「え?」

「だって以蔵がいなきゃ私、笑えない!以蔵がいなきゃ私、ダメなんだよ?」

「………」

「以蔵?」



「/////、お、お前は!!」

私を包んでいた以蔵の腕が更にキツく私を抱きしめた。
ちょっと痛いけど、今はそれが心地いい。

「ねぇ?」

以蔵の手の上にそっと自分の手を重ねる。

「ん?」

「私、これからもずっと以蔵のそばにいてもいい?」

「お前が望むなら…
いや…」

「?」

耳に以蔵の吐息がかかる。



「俺のそばにずっといてくれ…」


そう、あなたが耳元で甘く囁いた。


「……うん、ずっとそばにいる、何があっても…」








気がつくと雨も上がり雲の隙間から光がさしてきた。
柔らかな風が頬を撫でる。


「雨…あがったね…」

「あぁ。帰るか…」

「うん…」

以蔵の腕から解放された私は以蔵の顔を見る。













「!!!」




「どうした?」










「いやあぁぁぁぁああっつ!!お化けぇぇええっ!!!」





「えっ!?お、おいっ!?」




私は以蔵を置いて、一目散に寺田屋に向かって走って逃げた…










だって…



以蔵の顔…




お岩さんみたいだったんだもん








その後、しばらく以蔵は口を聞いてくれなかった…












以蔵は多分小娘が出ていったあと、寺田屋組の誰かに殴られたという設定で…

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