幕恋短編集以蔵編

□月夜の告白
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月夜の告白

ある日の夜、以蔵の部屋の前を通りかかった葵は、窓際に座る以蔵を目にした。

「以蔵、何してるの?」

声をかけたが、以蔵は返事を返さない。


「以蔵、入るね。」

以蔵の様子が気になった葵は、そういうと、部屋に入り、窓際に座る以蔵の様子を伺う。
月明かりに照らされた以蔵は、刀を抱いたまま、目を閉じ、穏やかな顔をしている。

「珍しいなぁ…。いつもは絶対、こんなとこで、寝ないのに疲れてるのかな…。このままじゃ、風邪ひいちゃうよね。」

そう思い、自分の羽織を脱ぎ、以蔵にかけようとした瞬間!
………………………………

何が起こったのか、わからなかった。

気がつくと、腕をつかまれ目の前には、今までみたことのない冷徹な顔をした以蔵。

そして、葵の首筋にはヒヤリと冷たい刃があてられていた。

「…………っっ……‼︎」

息をのむ葵……

「!!!!!あ…。…っつ‼︎」

「きゃっ…!」

我にかえった以蔵は、葵を突き飛ばし、刀を握った自分の腕を抑え込んだ。

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

青ざめる以蔵。
無意識とはいえ、葵に手をかけようとした、自分に恐怖した。
新しき時代の影として、暗躍する以蔵にとって、
殺るか殺られるか?
それが、全てであり、反射的に体が動くのも、至極当然の事だった。

所詮、自分はただの人斬り…。
人を斬る事しか知らない…。
誰かを守ろうなんて思う事自体が、おこがましかったんだ。
こんな様を見られては、もう葵も怖がって、そばには寄ってこないだろう。

それでいい…。

自分に言い聞かせようとするが、胸が締め付けられるように痛い。

『葵を守りたい。』

それ以上に、

『葵のそばにいたい。』

と思う自分がいたことに、以蔵は愕然とした。

「…蔵、以蔵?、ねぇ、以蔵ってば‼︎大丈夫⁉︎」

自分の名を呼ぶ葵の声に、以蔵は顔を上げる。
あんな事をしたのに、離れるどころか、自分を憂えてくれる葵に、以蔵は気が咎めた。

「………わるかった…」

どう、応えればいいかわからず、とりあえず発した言葉は、それだけだった。

「え?さっきの?ううん、全然、大丈夫!
それより以蔵は?顔、青いよ?」

「…………。」

何が大丈夫なのだろうか。
命をとられそうになったのに…。
普通は、離れていくだろう?

「……以蔵?」

尚も、自分を憂えて、声をかけ続けてくれる葵。
縋りつきたくなる自分に、呆れ果て、渇いた笑いが出る。


「…ははは。」

「…………?」

不思議顔の葵に、以蔵は胸のうちを告げる。

「今のでわかったろ?
所詮、俺はただの人斬りだ…。
…ご覧のざまだ…。」

「……………………。」

以蔵をみつめたまま、彼の紡ぐ言葉に静かに耳を傾ける葵。

「また、今みたいにお前に手をかけるかもしれない。だから…、もう…、俺にかまうな…。」

そういって、葵に背をむけて、以蔵は窓の外の月を見つめた。

夜風が以蔵の前髪を揺らし、頬を撫でてゆく。
すこし、冷たい霜月の風が以蔵の心を冷やしていった。



ふと、背中に温もりを感じると、それは優しく以蔵を包んだ。

「…..。俺にかまうなと言っただろ?」

自分を後ろから抱きしめている葵に、静かに言葉を発する。

「……嫌」

葵の返事に、以蔵は声を荒らげた。

「さっきの俺をみただろう⁉︎
いつか、お前を傷つけてしまうかもしれん…。
そんな事はしたくないんだ‼︎
離せ…‼︎」

「……嫌。」

「離せって言ってるだろ!?もうやめてくれ…‼︎」

「……いや、いや…!」

叫びにも似た、以蔵の声に、泣きながら首を横にふり、更に以蔵にしがみつく葵。

「……………、何で……」

俺は、お前に手をかけようとしたんだぞ⁉︎
俺が、怖くないのか⁉︎

葵の行動が理解できない以蔵は 、困惑した。
すると、葵は自分の思いを以蔵に届けるように、抱きしめた腕に力をこめ、ゆっくりと言葉を紡ぎはじめた。


「以蔵と離れるなんて嫌…。絶対…、離れたく…ない…。
……さっきの以蔵、ホントに怖かった。
私の知らない別の人みたいで、とても………。
でも…、でも…‼︎
以蔵は、本当は誰よりも優しいって、私、知ってる!
誰も傷つけたくないのに、でも、やらなきゃならない。
以蔵は優しいから、苦しくて仕方ないよね…。
なのに、その苦しみを誰にも打ち明けないで、自分の中に閉じ込めてる。
だから、どうしようもない感情を洗い流すように、井戸のところで、水を被ったりしてる事あるよね?
一人で、抱えこまないで…。
私にも以蔵のその気持ち、聞かせてよ…。
何もできないけど、以蔵の気持ち、少しでもわかりたいの!
一緒に考えたいの‼︎
お願い…。一人で苦しまないで…。
これからもずっと、以蔵のそばに…、以蔵と一緒にいたいの。」

「…………。」

言の葉を紡ぎ終えた葵に、言葉を返さない以蔵。
堪らなくなって、葵は以蔵に返事を求めた。

「…以蔵?何か言ってよ…」

以蔵の気持ちを聞かせてよ…。

心の中でつぶやきながら、以蔵の背中に顔をうずめる。
ふと、葵の手をごつごつとした大きい以蔵のあたたかい手が覆った。

「…俺なんかと、一緒にいたいのか?」

耳に響く甘く低い声が、上から降ってきた。
葵が顔を上げると、以蔵が後ろを向き、切なげに葵を見つめている。

「うん、以蔵じゃなきゃ嫌だ!」

葵は、以蔵の目を見つめると、笑みを浮かべ、ハッキリと応えた。

「…人斬りだぞ?」

以蔵の問いに葵は、笑顔のまま答えを返す。

「人斬りとか、そんなの関係ない。以蔵だから、一緒にいたいの…。」

その答えを聞いた瞬間、以蔵は自分を抱きしめている葵の腕を外し、ふりむくと、その腕でキツく葵を抱きしめた。

「葵…!!」

求めるような、縋るような自分の名前を呼ぶ以蔵の背に、手を回した葵。

「以蔵のそばに、ずっといたい。」

葵はそういうと、以蔵をギュッと抱きしめた。
葵の言葉と温もりに、胸が満たされてゆく以蔵は、一つ息をすると、葵に語りかけた。

「葵…、俺は守る剣は知らん、お前を傷つけるかもしれん…。
それでも、そばに居てくれるか?」

「うん、大丈夫!私、強いし、丈夫だもん‼︎自分の身位、自分でなんとかするよ!
だから、そばに居させてくれる?」

人斬りであることを知っても、無意識に手をかけそうになっても、それでも、自分のそばに居たいと言ってくれる葵。
以蔵は、泣きたくなるほどの幸せを噛み締めていた。

「以蔵?」

以蔵の顔を見上げる葵の頬に触れ、彼女に優しく微笑みかけながら、以蔵は口を開く。

「筋金入りの、ど阿呆だな…。」

「ど阿呆で、いいもん!以蔵と居られるなら‼︎」

「ははは!…葵…。」

「なぁに?」

以蔵は葵の瞳を見つめると、素直に自分の気持ちを伝えた。

「わしはおまんが、好きじゃ。
わしのそばに、ずっとおってくれるか?」

思いもよらない以蔵の告白に目を丸くした葵だったが、目をうるませ、花のように笑うと、

「…うん‼︎うん‼︎
私も、私も以蔵が大好きだよ‼︎
…ずっと、そばにいるよ!」

そう言って、以蔵の胸に顔をうずめた。

月の光が優しく二人を照らす。
二人は、お互いのぬくもりを感じるように抱きしめあったあと、見つめあい、ゆっくりと唇を重ねた。

何があっても、ずっとそばに…。

まるで、そう誓いあうように…。





UおまけU

龍馬
『以蔵よかったの〜‼︎
はっ⁉︎いかん( ̄□ ̄;)!!
すっかり見入ってしもうた!』

慎太
『龍馬さん!静かに!』

以蔵「⁉︎」

慎太
「ああ、見つかったっす!以蔵くんが、こっちに来た!
これは、ヤバイっすよ‼︎」

以蔵
「何をしている!」

龍馬
「わ、わしらは何もみとらんぞ!
おまんらが仲よう抱擁して、口吸いしておったとこなど、みておらんぞ!」

慎太
「りょ、龍馬さん!」

以蔵
「//////⁉︎…斬るっ‼︎」

龍馬
「うわぁーっ‼︎許せ!以蔵〜っ‼︎」

慎太
「以蔵くん、悪かったっすよ〜‼︎」

ドタバタドタバタ…………

武市
「以蔵‼︎何をしている‼︎⁉︎」

以蔵
「はっ‼︎先生……。」

武市
「龍馬‼︎お前もだ‼︎中岡も付いていながら、この騒ぎはなんだ⁉︎」

慎太
「すんません…。」

龍馬
「実はのぉ、以蔵と葵さんが遂に…」

以蔵
「うわぁーっ‼︎馬鹿っ‼︎やめろぉぉぉおおっっつ‼︎」

武市
「うるさいぞ‼︎以蔵‼︎」

以蔵
「せ、先生…。」

武市
「龍馬、それで…?」

慎太、以蔵、葵
「⁉︎」

龍馬
「へ?ああ、それでじゃのぉ…。」

以蔵
「勘弁してくれーーーっ‼︎!」








おしまい

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