幕恋短編集以蔵編
□想いを言葉に代えて
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「ねぇ?私の事、好き?」
「な!?突然、何だ!?」
部屋で刀の手入れをしている俺に、茶を持ってきた亜希。
しばらく、黙って俺の隣に座っていた亜希が発した第一声に、俺は思わず動揺する。
「ねぇ?私の事、好き?」
今度は身を乗り出して、俺につめよるようにして、尋ねてくる。
その眼差しは、真剣で俺のこたえを要求している。
その様に愛しさを覚えながら、俺は鼻から息を抜くように笑うと、刀を置いて、こたえるかわりに、その頬に触れ、口付けを落とした。
唇を離して、亜希を見ると、亜希は頬を赤らめながらも、俺を睨みつけていた。
「な、何、怒ってるんだ!?」
亜希の態度に狼狽えながら、不機嫌な理由が分からなくて尋ねる。
俺は、俺なりに、自分の気持ちを伝えた筈なんだが、何か不服でもあるのか?
誰よりも、お前を想っているのに
・・・
不可解な亜希の行動をただ、ただ、見つめていると、亜希は、
「私は、以蔵に、ちゃんと言葉にして言って欲しかったの!
口付けじゃなくて、言葉が欲しかったの!!」
真っ赤な顔で叫びながら、訴える亜希に唖然とする。
「・・・そんなの口にしなくても、分かってるだろ?」
何を今更・・・
口付けも、夜を共にすることも幾度となく、繰り返しているというのに・・・
溜息をつきながら、そうこたえると、亜希は目に涙を溜めながら、
「最初の頃は、以蔵、ちゃんと愛してるとか、好きだって、いっぱい言ってくれてたのに、最近、全然、言ってくれなくなった!
私ばっかり、好きって言ってるみたいで、不安になる。
私の気持ちと、以蔵の気持ちに温度差がある気がして、悲しくなる。
口付けをくれても、優しく抱かれても、以蔵の気持ちが離れて行くように思えて怖いの。
だから、言葉が欲しいの。
聞かせて欲しいの、以蔵が私の事、どう思ってるかって・・・」
俺に訴えると、顔を伏せた。
亜希の言葉にハッとする。
言葉にしなくても、態度や行動で自分の気持ちは伝わっていると思っていた。
亜希なら、何も言わなくても、分かってくれていると思っていた。
それが、亜希を不安にさせているとは、露にも思わずに・・・。
自分の思い込みで、亜希を不安にさせていた事を申し訳なく思うと同時に、俯いた亜希を引き寄せ、抱きしめる。
「また、こうやって、誤魔化す・・・」
腕の中の亜希は俯いたまま、言葉を零す。
「…不安にさせて、悪かった。
言わなくても、その…、分かってもらえていると思っていたんだ。すまん。」
抱きしめた腕に力を込めながら伝えると、亜希は、
「・・・。
私の方こそ、ごめんなさい。ワガママ言って・・・。
以蔵の気持ち、ちゃんと分かってるよ?
でもね、やっぱり、たまには言葉にして欲しいの。
以蔵の声で、言葉で、以蔵の気持ちを確認したいの。」
そう言うと、顔を上げて俺を見つめた。
純粋無垢なつぶらな瞳が、俺の心を揺さぶる。
胸に押し寄せてくる熱い想い
いつもなら、この想いを唇に乗せて伝えるところなんだが・・・
俺は、亜希を見つめ返す。
「亜希・・・」
「なに?」
首を傾げて、俺を見上げる亜希に、愛しさが溢れ、自然と口元が緩む。
俺は亜希に微笑みかけると、想いを言葉に代えて、言葉を噛み締めるように告げた。
「・・・愛している。」
終