その他小話

□誓いの言葉
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小鳥の囀りが、朝の訪れを知らせる。
ふわりと意識が浮上して、うっすらと目を開けると、かーてん越しに、朝の光が薄暗い部屋を淡く照らしていた。
夢から覚めたばかりの頭は、まだハッキリとせず、ボンヤリとしている。
けれど、胸の中はポカポカと温かく、真綿で優しく包まれたような幸せを感じて、口元を緩めた。


懐かしい夢を見た…


昔の記憶…


目を閉じるとあの頃の君が、脳裏に浮かんだ…。



『せぇらぁ服』という異国の服装に、結い上げもせずに、そのまま下ろした色の薄い長い髪の少女

その珍妙な格好に目を惹かれ、興味を持った。
最初は、それだけだった。
けれど、君と夢の中で会う不思議な体験や、偶然、街中で君と出逢う事が度重なって、僕は君に奇妙な縁を感じるようになった。

くるくる変わる表情
時々しでかす、おかしな振る舞い
自分を省みない無鉄砲さと、底なしの優しさ
その人柄を表すような温かくて、明るい笑顔

そのどれもが、僕に色んな気持ちをくれた。
少しずつ、君の存在が僕の中で大きくなっていくのを感じた。
そして、君が未来に帰れるとわかった時、僕はハッキリと自覚した。


僕は君を愛している

僕は笑っている君の側にいたい

その笑顔を、いつまでも守り続けたい


労咳である僕が、君といられる時間はあまりないかもしれない。
それでも、僕は、君に側にいて欲しくて、誓うように君に願った。

運命になんか負けたりしない
絶対に、どんな事をしても、病に打ち勝ってみせるから…
君がいれば、きっと僕は何度でも立ち上がってみせるから…と

君を困らせてしまうと思った。
こんな事を言っても、君に尋常じゃない、負担をかけてしまうのは、目に見えていたから….。

でも、君は笑って、ずっと僕の側にいると、僕を大好きだと、僕と一緒にいれるなら、未来に帰れなくたっていいと、言ってくれた。

とても嬉しかった…

君がいれば、何でも出来る気がした。
どんな困難にでも、立ち向かえる気がした。

その後、色々あって、僕達は今、日本から遠く離れた、異国の地で二人で暮らしている。
顔を横に向けると、隣には眠る君。
その顔に、あの頃の幼さはないけれど、君は変わらず、笑顔で僕の側にいてくれている。

規則正しい呼吸音と穏やかな寝顔
僕の寝間着を握る手

それは、夢よりも、もっと、もっと、もっと、僕を幸せな気持ちにしてくれる。

いつの間にか、労咳の発作も起きなくなり、嘘みたいに元気になった。
診療所で医者にみてもらったら、本当に労咳だったのかと、信じられないような顔で尋ねられた。その後、医者に笑って、今の君は全くの健康体だよと告げられると、その奇跡のような事実に、僕と君は抱き合って喜んだ。
大泣きしながら、

「良かったね、良かったね。」

ずっと、繰り返す君に、僕は苦笑しながら、その手をひいて、診療所から家に帰った。
握った手のぬくもりに、ずっと側にいてくれて、ありがとうって感謝と、これからもよろしくねって、気持ちを込めて…

診療所から家に帰ると、僕は待ちきれずに玄関で、息を忘れるくらい、夢中で君に口づけしたっけ…

その時の自分を思い出すと、反省の極みなんだけど、ずっと望んでいた事が叶った喜びと、君の唇があんまり柔らかくて、甘くて、その感触をもっと味わいたくて、手加減する事ができなかったんだ。
僕は自嘲気味に笑うと、眠っている君を抱き寄せ、腕に閉じ込める。

この幸せをくれた君と出逢えた奇跡に、感謝するように、君を手離さないように…

僕は、君にふさわしい男じゃないかもしれない

けど…

君を想う気持ちは、誰にも負けない
絶対に君を離さない 
君の笑顔は、僕が守り続ける

君に誓うように願った言葉は、今も心の中に…

腕の中の君が、軽く身じろぎをして目を覚ます。
ゆっくりと開かれたその瞳に僕が映ると君は、

「おはよう、総司くん。」

ふんわりと微笑んで、そう言った。

「おはよう。○○」

僕も同じように微笑むと、君にそう言って、その唇にそっと口付けた。

起き上がりべっどから抜け出すと、僕はかーてんを開け、窓を開けた。
目に映ったのは、朝焼けに染まって、何処までも広がる空。
あの日、あの場所で、君に誓うように願った時に見たのと同じ空。

今日もまた、新しい一日が始まる。

空をみつめる僕に寄り添うように、僕の隣に君が立った。
僕が君をみつめると、君は幸せそうに笑ってくれた。
その笑顔に、僕も自然と顔が綻ぶ。
お互いに笑顔を交わすと、僕はまた
空に視線を戻した。

君に誓うように願った言葉を違えることは、絶対にしない…

ありふれた平凡な一日一日を大切に、かけがえのない君とこれからも、一緒に歳を重ねていこう。

そう、空に誓うと、僕は君の肩をそっと抱き寄せた。

〜終〜

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