旧作 〜TRUTH〜

□MONSTER[2004]
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─Chapter2

 話は昨日の夕方に遡る。
 撮影隊がマンハッタンの港に到着すると、すぐさま翌朝からスタートする撮影の為にテントの設営を開始していた頃、ニューヨークの中心街から少し離れた一角にあるアパートメントの一室の"テリー探偵事務所"に、ジュールが訪ねていた。
「ギケーが動くぞ」
 応接用のソファーに腰掛けると、向かいに座る探偵事務所の所長であるトゥルースに言った。
「本当か!」
「あぁ、しかも我々の予想を超えるものだ。明日から、日本が中心となって製作される映画の撮影があるらしいのだが、その映画に実名でマフィアゲーン一家のボス役として出演するらしい」
「は?」
「言葉のままだよ。ギケーが何を企んでいるのかはわからないが、映画に出演するんだ。俺もつい数時間前に知った話だ。とりあえず、お前さんには一番に伝えておいた方がいいだろうと思って、仕事帰りに直接来たという訳だ」
「それは、ありがとう。………この半年、ニューヨークから姿を消していたと思えば、映画出演だと……。奴は一体何を考えているんだ」
 トゥルースは苛立ちを露にする。
「とりあえず、情報は伝えるが、警察にも警護の依頼は出ておらず、あくまでも撮影の許可等の関係で知ったことなんだ」
「そんな事を気にする必要はない。10年もの因縁で後一歩のところで逃して半年だ。オレはギケーの監視をする」
「わかった。お前さんには夏の件もあるし、協力しよう。とは言え、俺ができるのは警察がお前さんの邪魔をしないようにする程度だが」
「それで十分だ。早速、明日から張り込ませてもらう」
 トゥルースはこぶしを握ると言った。
「まぁ、友人としての話はここまでだ。実は、警察から依頼があるんだ」
「なんだ?」
「この街の地下に巨大な怪物が潜んでいるという都市伝説を聞いた事がないか?」
「あぁ、確か随分前にUMAブームがあった時に並べられた話だな。ペットが逃げ出して、巨大化したとかだったな」
「そうだ。それがまた最近囁かれていてな。それが、あまりに急だった事と、どうもその噂が人を襲っただの、実際に行方不明者が出たといった真実味がありそうな話でな。警察の方に問い合わせが何件かよせられいるんだ。とはいえ、怪物がいるとは思えないし、実際に警察に被害が届けられた訳でもない。それにどこかに事実がある可能性がある」
「つまり、事件性があるかないか、そして噂の真相を調べてほしいというわけだな」
「そういう事だ」
 ジュールは頷いた。
「まぁ、そういう事なら依頼を受けよう。とはいえ、オレはギケーの方が気になる。………ヘレン! イリス!」
 トゥルースは廊下に向かって声をかけた。しばらくして、二人の女性が部屋に入ってきた。一人は老婦人。もう一人はショートカットの金髪が印象的な美少女だ。
「ヘレン、イリス。すまないが、オレの代わりに調べてもらっていいか?」
「その目を見ればわかります。ギケー様が動き出しのでしょう? ならば、トゥルースさんはそちらへ集中してください」
 老婦人、ヘレン・グリコーはトゥルースに言った。そして、隣に立つ美少女、イリス・サトラーも頷くと言った。
「任して。私ももう一人前の助手よ。警部、依頼内容は?」
 ジュールは微笑むと、改めて二人の探偵助手に依頼内容を話し始めた。


「さて、トゥルースさんも港へ出かけたし、私達も調査を始めましょうか」
 朝、探偵事務所ではヘレンがマンハッタンの地図を広げると言った。
「そのエリアが噂の広まっている範囲ね」
 イリスは地図に赤ペンで描かれている範囲を見て言う。
「そうよ。単純に考えると、この範囲の中心が噂の元だけど、マンハッタンじゃそうもいかないでしょうね。地道に情報網を使って探るのが一番だと思うわ」
 ヘレンは言った。彼女は元々ギケーに仕えていたが、トゥルースと共にゲーン一家から抜けた。当時、彼女がその力を利用して独自に開拓した情報網があり、それによってトゥルースも助けられている。
「じゃぁ、私は一度地下を調べてみるわ」
「危険じゃない」
「私を誰だと思っているの? 大丈夫よ。地下なら昔暮らしていたし、腕は鈍ってないから」
 イリスは笑って言った。元々ストリートチルドレンとして過ごしていたが、ギケーの元で殺し屋の技術を仕込まれ、後にトゥルースの助けでゲーン一家を抜けた過去がある。
「わかったわ。でも、気をつけるのよ」
「はい」


 暗い地下道、その中をイリスは懐中電灯の明かりを頼りにゆっくりと歩いていた。
 噂と関係がありそうなものがないか、慎重に彼女は調べながら暗闇を進んでいく。
 周囲はパイプが走っており、ガスか上下水道のパイプだろうと彼女は判断した。しばらく歩くと、その判断を証明する様に、大きな地下下水道に出た。僅かにマンホールから差し込む光が確認できる。
 臭いはカビと泥の臭いであり、好ましいものではないが、排泄物等の持つ悪臭とは違い、耐え難いものではなかった。
「………いや、そんなのは贅沢か」
 幼少の記憶を思い出し、イリスは苦笑した。
 その時、地下道の先に動く灯りに気が付いた。清掃か点検の為に来た人間だろうと思い、イリスは灯りを消すと横穴の影に隠れてその場をやり過ごそうとした。
 しかし、近づくにつれ、それが招かれざる存在である事に気が付いた。
「兄貴、臭いっス」
「黙れ、お前の息が臭い。ゲーン一家の人間ともあろう者が下水の臭い程度で音を上げてどうする!」
 二人組みのゲーン一家の構成員であった。イリスも一度も見た記憶がなく、言動からも下っ端であろうと判断した。
「兄貴、ちゃんと横穴も見ておかないと」
「馬鹿、俺達の目的はそんな小さい穴にはいないだろ!」
 しかし、弟分の男は兄貴分の言葉を無視して、イリスが隠れる横穴を覗き込んだ。
「だ、誰だ!」
「ちっ!」
 イリスは素早く弟分の持つ懐中電灯を蹴り飛ばした。何が起こったのかわからず、ただ驚く事しかできない弟分をイリスは無視し、拳銃を抜いた兄貴分へ駆け寄る。
「お、お前は!」
 イリスの顔を見て彼が叫んだ直後、イリスの掌底が彼の胸部を突き、そのまま下水の中に落ちた。
 すぐさまイリスは下水道を後にした。


「ゲーン一家が? 映画出演に敵対マフィアの襲撃に地下道探索とは、また忙しいな」
 事務所で夕食を食べながら、イリスの話を聞いたトゥルースは言った。
「うん! おいしい。ヘレンさんの料理はとてもおいしいです」
 全く会話の前後を無視した料理への感想がトゥルースの向かいで述べられた。
「迷さん、今の話を聞いていましたか?」
 事務所に招かれて彼らと一緒に夕食を食べているトゥルースの向かいに座る探貞は、彼の問いに頷く。
「聞いてましたよ。確かに忙しいみたいですね」
「まぁ、そうなんですが………。昼の様に素晴しい推理を期待していたんですが」
「トゥルース君、謎を解くにはデータがいるんですよ。なぜ彼らが地下道にいたのか、まだわかりません。案外、怪物を捕まえて一括千金でも狙っていたんではないですか」
 そう言うと、探貞は満足そうにヘレンの料理に舌鼓を打つ。
「……それとも」
 探貞はワインで口を潤すと、言った。彼らは探貞を見る。
「その怪物の調査、手伝いましょうか?」
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