旧作 〜TRUTH〜

□-EPISODET-
3ページ/11ページ

【決別】

「ヘレン、もう教わる予定はないぞ? それとも、後3時間後に来るオレの16歳の誕生日を早くも祝ってくれるのか?」
 トゥルースの部屋に入ってきたヘレン・グリコーに彼は冗談めかした態度で言った。
 火事から5年、ギケーに引き取られたトゥルースは、ギケーの屋敷に幽閉状態に置かれられていた。学校には送り迎えとガードが付き、それ意外は敷地の中での生活で、彼は常に監視され続けている。
 彼の部屋に入ってきたヘレンは、彼の家庭教師を務める49歳の女性だ。彼女はギケーの秘書でもある。その能力は多岐に渡り、家庭教師として教える分野も、教養以上の勉強に留まらず、実用的な武術にも及んでいた。その結果、現在のトゥルースは高校修了の学力と兵隊並の戦闘力を持つようになり、特に射撃に関してはその道のプロに匹敵するレベルに達していた。
「トゥルースさん、あなたに教えなければならない事が一つだけあるわ。あの日、あなたの家族を殺したのは、ギケー様よ!」
 突然ヘレンは言った。あまりに突然の告白にトゥルースは呆然とし、やっとの思いで言葉を呟いた。
「な、なぜ突然?」
「驚くのも当然ね。あなたがここに来た時………いや、あの火事を知った時から、私は今日、こうしてあなたにこの事を話す事を決めていた。………不思議と思わなかった?成長期をあのギケー様によって育てられたにも関わらず、人間兵器に洗脳もされずにここまでギケー様の驚異になりうる教育をされてきた事に」
「ま、まさか! ヘレンが?」
「えぇ。私がギケー様の洗脳を防いでいたのよ。本当は今日が来る前に、犯行の証拠を掴んで、あなたに教えるつもりだった。しかし、あなたも長年探し続けて気が付いていると思うけれど、ギケー様は既に犯行の証拠を抹消してしまい、見つからなかった。唯一の可能性は証人だけど、今のところ実行犯も全くわからないし、生存者のあなたは見ていない。残念だわ」
 ヘレンは本当に悔しいという表情で言った。しかし、その悔しさはトゥルースも同じである。彼が素直にギケーに引き取られた理由こそ、家族を殺害した犯人がギケーである証拠を見つける為なのだから。
「そ、そんな事よりもなぜオレにそんな事を? ヘレンはギケーの右腕の様な存在だろ?」
 トゥルースは疑問をヘレンに投げかける。あまりに突然すぎる展開に、まだ混乱を隠しきれないが、可能な限り彼は冷静に状況を判断していた。
 ヘレンは静かに頷き、その疑問に答える。
「それはあの火事までの話よ。私はあなたのお父上の母親代わりをして、あの方を育てた。私にとって、ギケー様の行為は息子を殺されたのと同じだった。例え、ギケー様があの方の父であろうと許せる行為ではない。そもそも、あの方やトゥルースさん、お母様、ミズキちゃんをギケー様の手から逃がし、あの家を用意したのは私だったのよ。しかし、あれは私の失敗だった。あのような事態は容易に想像出来た筈なのに、私は気付けなかった。気付いていれば、お母様の故郷の日本へ逃がすなどの方法もあったのに………」
 ヘレンはとても辛そうに語った。
「そう………だったのか」
 初めて聞く事実に、ついにトゥルースはこの事態を理解し、納得した。
「それで、手がかりすらないのか?」
「はっきり言って、私が今までに集めたギケー様の犯罪の証拠は、ゲーン一家の力でいくらでも揉み消せるレベルの犯罪ばかりだわ。ゲーン一家はいくつものマフィアと繋がる国際的な組織で、ゲーン一家のものと言える凶悪犯罪はいくらでもある。ギケー様が直接行っているみたいで私は知りえなかったけど、殺し屋の教育をしたり、秘密結社にも属しているとも言われているわ。しかし、全て証拠がなくて、ゲーン一家という巨大組織のボスを裁判の場に引きずり出すのはまず無理よ」
 ゲーン一家は麻薬の密売や利益を目的とした人身売買などの人を食い物にする手段を嫌い、証拠を一切残さずに大きな犯罪を行い、その名を闇の世界に広め、現在の地位を確立した。その為、FBIやインターポール等も潜入捜査や一斉検挙がしにくく、今までゲーンの名を宿す人間に一人も逮捕者が出ていない。
「そうか。じゃあ、ヘレンはオレに話して、何をするつもりなんだ?」
 トゥルースはヘレンに聞く、すると彼女は白髪の無い金色の髪を揺らすと、懐からニ丁の拳銃を取り出した。リボルバーの装飾銃と、オートマチック式のマグナムであった。
「このリボルバーはゲーン一家が200年前の開拓時代から代々改造されてきた装飾銃よ。そして、開拓時代のゲーン一家創始者、つまりあなたの先祖から伝わる物。あなたはこれを持つ権利があるわ。弾は28口径で八発撃てる。もう一つのマグナムは、最新鋭の改良が自在な万能銃。………あなたに最高の誕生日プレゼントをあげるわ。自由という名の」
 ヘレンは茶色い目でトゥルースを見つめると言った。その瞳の中の彼の青い目も彼女を見つめる。そして、彼は頷いた。
「脱出か! やろう!」
 お互いの眼に親子にも似た信頼を確信したトゥルースは、力強く言った。


「やっぱり、何一つ手がかりはないか……」
 ヘレンがトゥルースの部屋に来てから30分後、彼らは行動を開始した。まずヘレンは使用人や警護の人間を可能な限り屋敷内から出した。
 その後、部屋を出た二人はヘレンの部屋から、脱出の為に隠しておいた武器、そして今後の武器となると思われるヘレンの持つゲーン一家の資料を回収した。
 そして、今二人は最後の証拠探しをする為に、ギケーの書斎を漁っている。
「流石はギケー様、と言ったところね。恐らくすぐに必要な情報以外の重要な情報は、資料に残さずに記憶の中に収めているのよ」
「………そんなに頭がいいのか? ギケーは」
 半信半疑のトゥルースが聞くと、ヘレンは本棚から本を全て出し終えると、頷いた。
「ギケー様にとって、記録に残すのは誰かに見せる為にする事と言っても過言ではないわ」
「………このメモ書きはなんだ?」
 トゥルースはギケーの机の上に無造作に放置されたメモ書きを手に取った。メモと言っても単語が書かれているだけのものだった。
「多分、記憶に留める必要のない用事などのメモです」
「……普通ならもう少し丁寧に書くものだが、ギケーには単語で十分って事か。なんだかムカつくな」
 トゥルースはメモを見つめながら呟いた。紙には、『ヘレン』『赤(Red)』『9OD』『イリス』『神(GOD)』『西門』と様々なメモが書かれている。
「しかし。一体、何をメモしたんだ?」
「さぁ?それがわかるのはギケー様だけですから」
「だが、ヘレンっていうのもあるぞ?」
「多分、昼にギケー様が屋敷を留守にする前に、私に知り合いの神父様へ渡す為の赤ワインを用意しておくようにと伝えるのを忘れないようにというものだと思います」
「………本当に忘れそうな用件だな」
 トゥルースはメモ書きの意味に脱力しつつ言った。
「じゃぁ、この西門はなんだ?」
「それは、夕方からの警備を減らす様に、指示を出しておくのを忘れないようにというメモだと思うわ。今朝、ギケー様が警備責任者にそう指示を出していたから」
 ヘレンの返答を聞いたトゥルースの口に笑みが浮かんだ。
「……ヘレン。それ、利用できるぞ! きっと、ギケーは何らかの理由で警備を手薄にしたんだ。そこから脱出しよう!」


 ギケーの屋敷には、銃声が響いた。
「警備はいないんじゃなかったのか?」
「全員追い出すなんて事はギケー様が直接警備責任者に命令しない限り無理よ」
 廊下を走りながらトゥルースとヘレンは言い争いをする。
「大した誕生日プレゼントだぜ!」
 言い切ると同時にトゥルースは二丁の拳銃をそれぞれ発砲した。両脇から走ってきた子分の手に持っていた拳銃に命中し、子分達は悲鳴を上げる。
「飛び降りましょう」
 ナイフで襲い掛かる複数の子分達を手刀だけで気絶させ、ヘレンはトゥルースに言った。
「あぁ!」
 トゥルースは跳び蹴りで子分を吹き飛ばすと、彼女の提案に同意した。
 二人は同時に屋敷の窓から飛び下り、庭に降り立った。
「追手はないな」
「全員気絶させているから大丈夫よ」
 トゥルース達は木に隠れて弾をリロードしながら会話をする。
「いいわね? ……では、西門に行きましょう」
 トゥルースは頷いた。


 二人は素早く西門に向かって、木がしげる庭を進み、西門の近くに来た。西門から屋敷に伸びる道の脇の茂みにバイクが一台隠されていた。
「このバイクは?」
「私が隠しておいたものよ。一応、この脱出でのあらゆる可能性を考慮して、全ての門の近くにバイクを隠しておいたのです」
「なるほど」
 ヘレンの説明にトゥルースは素直に感心した。一方、ヘレンは手早く準備をし、バイクに跨っていた。
「乗って」
「あぁ」
 トゥルースもヘレンの後ろに股がる。
 西門は案の定、警備が手薄であった。しかし、ヘレンはすぐに動こうとはしない。
「ヘレン。何を待っているんだ?」
「いくら警備が手薄と言え、今門に突入したら、他から追っ手が来る。警備を手薄にした以上、恐らく、誰かがこの門をこっそり使用する。その時を待っています」
「それは………ギケー?」
「さぁ? しかし、ギケーに警備を減らすよう頼める人間である事は間違いないわね。それがギケー自身か、それとも他の誰かなのかはわからないけれど」
 そう言うと、ヘレンは再びバイクに身を寄せて視線を低くし、西門の様子を伺う。
 しばらく様子を伺っていると、二人の警備が、西門をゆっくり開く。
 素早く彼らはバイクをふかし、突撃の準備をする。門は完全に開いた。
 外から黒いリムジンがゆっくりと門に向かってくるのが見える。それを確認するや、ヘレンはバイクを走らせた。
 突然現れたバイクに警備の2人は驚き、反応が遅れる。一方、リムジンは迷わずゆっくりと門へ向かっていた。
 互いのヘッドライトがお互いを照らす。
 光の中、ヘレンはバイクをウイリーさせると、バイクを跳ばした。門の中で、バイクはリムジンの上を飛び越える。バイクの後輪がリムジンの後部ボンネットに当たり、バイクはバウンドした。
 リムジンはその場に停車する。一方、バイクは自由のある外界の道路に着地し、ブレーキをかける。
 トゥルースとヘレンはヘルメットを脱いだ。リムジンから、ギケーが降りる。西門を使ったのはギケーであった。
「ギケー様! お許し下さい。しかし、これはあなたがした罪に対する罰です」
 ヘレンは門の中に立つギケーに言った。それに、対しギケーは勝ち誇った口調で言う。
「トゥルースよ! わしを出し抜くなんぞ100年早いわ! お前がわしの期待通りにならない位わかっておった! お前の代わりはいる! 好きにするがよい!」
「好きにさせてもらう! オレは貴様の罪を暴いて、いつか、引頭を渡してやる!」
 その時、トゥルースはリムジンの後部座席にはまだ人がおり、その人物が自分達を見つめている事に気が付いた。
「行きましょう」
「あぁ」
 ヘルメットを被るヘレンに促され、トゥルースもヘルメットを被り、バイクをふかす。
 バイクが走り出した瞬間、リムジンから一人の少女が顔を出した。少女と一瞬、トゥルースは視線が合わさった。年下だ、直感的に彼は思った。
 バイクは、ギケーと少女を残して、その場を後にした。
「誕生日おめでとう。そして、自由とその代償に待つ戦い世界に、ようこそ」
 バイクを走らせながら、ヘレンはトゥルースに言った。時刻は、0時を過ぎていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ