未成年

□俺達のクソッタレ人生
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03.俺達のクソッタレ人生




人通りの少ない路地。
古びた廃墟に連れてこられた博人とデク。
五郎はサビれた扉をこじ開けた。
五郎「バブルがはじけてよぉ、ウチの組が地上げしたんだよ」
博人「へぇ〜…」
博人は五郎の後に続き、廃墟の中へ入って行く。
デクは怖いようで中に入ろうとしない。
博人は振り返った。
博人「怖くない、怖くない」
博人はデクを引っ張った。
だがデクはその手を払いのけて怖がる。
博人「大丈夫だって!!」
博人は強引にデクを引っ張って廃墟の中に入った。
中は薄暗く、ほこりまみれだった。
細い階段を登って行く途中にはクモの巣がうじゃうじゃあった。
デク「うわああああっ」
デクの顔面にクモの巣が引っ掛かった。
博人「ふはははは!!」
マヌケなデクを見て爆笑する博人。
2階に上がると更にほこりまみれだった。
博人はデクの顔と髪の毛についたクモの巣を払っていた。
広さはかなりあり、ロッカーと卓球台が無造作に置かれていた。
博人「卓球場だったのか」
五郎「ああ。今どき卓球場なんかやっても儲かるワケねぇよなぁ。まったくよぉ」
デクがロッカーを開けた。
デク「わああ!」
中からほこりをかぶったラケットとボールが出て来た。
デクは嬉しそうにそれを拾うと構えた。
五郎「おっ!やるか?」
五郎も落ちたラケットを拾い、卓球台の前に立った。
卓球台はほこりで白かった。
五郎「きったねぇなぁ!何だこれぇ!?」
デクは五郎にサーブを打った。
玉が台に当たるたびほこりが立った。
博人「うわ〜…!!」
ほこりに顔をゆがめながら博人は近くのソファに座った。
五郎「おいヒロ!お前彼女いるらしいじゃんかよぉ」
五郎はデクと卓球しながら言う。
博人「あ?」
五郎「お前今度俺にも見せろよ〜」
博人「…彼女じゃねぇよ〜…」
博人は小声でそう言った。

生まれる前からの決まりごとをウダウダごねるつもりはないさ。
俺はもっとテキトーだからね。
くせぇセリフでまとめちまうなら第一志望は譲れないだろうけど、ただいつも誰かを…いや、何かをワーっと腹いっぱい愛したいんだ。




博人「もしもしっ!博人ですけど!!」
夜になり、自宅に戻った博人は、ベッドに座り背筋を伸ばして電話をかけた。
博人「今…忙しい?」
電話の相手はもちろん萌香だ。
萌香【今、料理してるところなの】
受話器の向こうから萌香の声が聞こえる。
博人「あ、料理するんだ」
博人は嬉しそうに聞く。
萌香【そりゃあ多少はするわよ】
博人「上手いの?」
萌香【さあ。あんまり人に食べさせたことないから】
その言葉を聞いて嬉しくなる博人。
博人「じゃあ今度…食ってみたいな〜なんて!ひひひっ」
萌香【今日は?】
博人「え?今日!?」
萌香【何の用だったの?】
博人「あ、そゆことか。…いや、別に…なんとなく…あ!あの〜ちょっとわかんないトコあって!んで、明日でもいいかな〜とは思ったんだけど」
萌香【いいのよ。疑問は何でも早く解決する方がいいから。何ページ?】
博人「あ、ちょ…ちょっと待ってね!?」
博人は急いで引き出しから教科書を出した。
博人「んと…えーっと…127ページの…質問2なんだけど…」

辰巳【これだけあれば足りるかなぁ?】
電話の向こうから辰巳の声がした。
博人のテンションは一気にドン底に落ちた。
萌香【ちょっと待ってて。ああ十分よ】
萌香は辰巳と話している。
辰巳【だれ?】
萌香【弟さんよ。代わる?】
辰巳【ああ】

ピッ
博人は電話を切った。
そして博人は電話を睨む。
博人「アニキには食わせてんじゃねぇか!」
落ち込んだ博人はベッドに倒れこんだ。




セミが鳴き、何もしなくても汗が吹き出る夏の太陽の下。
お昼の時間になり、非常階段の踊り場で弁当を食べる博人と順平。
順平「食わせてんのは飯だけかねぇ!」
博人「あ?」
順平「いや、飯を食ってな?ビールかワインか知らんが、ちっと乾杯するわな!そんでもってビデオなんか見ちゃったりすんだよ!そこはやっぱラブストーリーだよな?離れ離れの恋人がよぉ、久々に再会するようなよぉ、結末はもちろん…熱い抱擁の末…チュウよ!」
博人は順平を睨んだ。
順平「その頃にはさっき飲んだアルコールがほどよくホルモンを刺激しあっててだな!お前のアニキの指が…彼女の後ろ髪のうなじにかけて下りて行くワケさ!」
博人は順平の頭をぶっ叩いた。
博人「くだらねぇ事言いやがって…」
順平「そうなったらよ!電気はスッと絞り込まれるわな!!」
それでも続ける順平。
順平「そんでな、ベッドに案内してだな、ディナーのデザートにあたしをどうぞ〜ってなぁ!!」
博人「彼女がそんな事言うかぁ!!」
順平「普通そうだろ!普通!!」
博人「普通じゃないんだよ!彼女はぁ!!」
順平「普通じゃないって…何よ?…なんか知ってるの?」
博人「うるせんだよ!お前はぁ!!」
博人は非常階段から出て行った。




高速道路の真下にある河原。
小学校低学年の子供達は輪になって集まっていた。
小さなミドリガメの体にバクチクを縛りつけ、導火線に火を付けた。
子供達はカメから離れ、物陰に隠れて楽しそうに時を待っていた。
カメの甲羅に結ばれたバクチクに火が引火しようとしたその時。
ダッ!!
デクが素手でバクチクを掴み外し、カメを助けた。
カメは無傷だった。
デクは悲しみに顔をゆがませながらカメをさすった。
カメにイタズラをした子供達はそんなデクをじっと見ていた。
デクは泣いていた。
泣きながら子供達を見た。
そして悲しそうに首を横に振った。




博人の家。
今日は家庭教師の日。
萌香は机に向かう博人に勉強を教えていた。
デクは後ろで小さなテーブルに小学校1年生のドリルを広げ、その上にカメを置いて勉強をした。
萌香「じゃあ、この英文、訳してみて」
博人「………」
博人は萌香の横顔を見た。

“熱い抱擁の末のチュウよ”

昼間の順平の言葉を思い出した。

“彼女の後ろ髪をうなじにかけて下りて行くワケさ”

博人「………」
博人の目線は萌香の胸へと変わった。
萌香「…どうしたの?」
我に返った博人。
博人「ふぇ?いや!いやいやいや…」
博人の後ろでデクはドリルを嬉しそうにかかげていた。
萌香「あ、デクちゃん出来たぁ?」
萌香はデクのドリルを見た。
萌香「わあ、全部あってる!花丸あげちゃお〜」
デク「うははは」
デクは嬉しそうに笑っていた。
萌香「よく出来たね〜!!」
博人「うわあ!!」
博人の足元にデクのカメがいた。
博人はそのカメを拾い上げる。
萌香に褒められたデクに嫉妬した博人はカメを持ってデクの隣に座った。
博人「おいしそ〜、このカメ〜」
その言葉にデクは博人を見た。
博人はカメを食べるフリをした。
デク「あああ!!だーめ!だあーめ!!」
博人「あーーーーん!!」
デクは力ずくで博人の腕を押さえる。
萌香「コラ!2人ともっ」
萌香は笑いながらそんな2人を怒る。




有名進学塾。
授業を終えた勤は足早に塾を出て電話BOXへ走った。





田畑瞳は1人リビングで家政婦の用意した晩ご飯を食べていた。
プルルルルル!!
電話の音が鳴った。
それと同時に玄関の開く音がして、家政婦は急いで玄関へ行く。
家政婦「おかえりなさいませ」
両親が帰って来た。
父「そうか。中原くん辞めてしまったのかね」
瞳「……っ」
その名前を聞いて瞳の手が止まった。
瞳の元家庭教師だ。
母「ええ。優秀な先生でしたけど就職活動が忙しくなるからって」
父「瞳の成績も上がって来たのに、残念だな」
瞳「………」
瞳はうつむいた。
父「とにかく代わりの家庭教師を…」
瞳「やめて!」
突然大声を上げる瞳に両親は驚いた。
瞳「もう1人で大丈夫よ。ごちそう様」
平然を装い、瞳はリビングを出て行った。




電話BOXの中、瞳の家に電話をかけた勤。
勤「瞳さんはいらっしゃらないんですか?」
家政婦【ええ。申し訳ありませんが外出なさってます】
勤「いつなら家に…」
ガチャン!
電話は一方的に切られた。
勤は受話器を置き、悲しそうに肩を落とした。




瞳「今の電話誰?」
部屋に戻る途中、電話を取る家政婦の声が聞こえ、瞳は家政婦に聞いた。
家政婦「あ、間違いでございます」
そう言うと家政婦は逃げるようにリビングへ行ってしまった。
瞳「そう…」




廃墟になった卓球場は博人達のたまり場となった。
博人「じゃああれから全然会ってねぇのかよ」
勤「ああ」
塾帰りの勤はたまり場へ寄り、瞳の事を話していた。
勤「何度電話しても留守だって」
卓球台ではデクと五郎が卓球している。
勤「ふーん。伝言は?」
勤「伝えて貰えてないと思う…」
博人「悪い虫だと思われてんのかね!」
勤「多分…」
五郎「じゃ、もう1度夜這いかけっか!」
博人「んな簡単に言うなよ」
博人は弁当箱サイズのビニールのパックに穴を開け、デクのカメを入れた。
博人「出来たぞー。カメ様のお家」
デク「うあーーー!!」
デクは嬉しそうに博人から受け取った。
そしてニコニコしながらそのカメの家を見ていた。
博人「バレエ教室は?」
勤「最近出てないみたいだ」
博人「そっか」
五郎「じゃあよ、アリサにかけさせるよ。ほら女の声なら出してくれんだろ」
勤「頼めるかなあ」
勤は嬉しそうに五郎に聞いた。
五郎「お安いご用だよ!後で電話番号教えなよ」
勤「あ、うん」
勤は嬉しそうにうなずく。
博人「けどよ、お前どうして自分ちの電話番号教えなかったんだよ。そしたら向こうからかけてこれんじゃん」
勤「いや、こっちも結構まずいんだ。受験前だからね」
博人「まるでロミオとジュリエットだな」
勤は寂しそうに笑った。




その頃、順平。
順平「あらららららっ」
買い出しを任された順平は缶ビールを落とし、追っていた。
落とした缶ビールを拾うとガードレールの前に座った。
順平「どうして俺がパシリなのよ〜。デクだっていいじゃなーい」
順平は缶ビールを1本開けた。
落としてしまったビールの為、中身が勢いよく噴き出た。
順平「あらら!ちょちょちょっ!!」
その時、道を歩く女性の足が目に入った。
順平「お!おおお〜!!キレイなあんよ!どちらに行かれるんですかぁん?」
電柱に抱きついた順平は張り紙に目が行った。
その張り紙は出張ソープの広告だった。
順平「人妻…?女子大生…?んん〜」




萌香のアパート。
博人に基礎力をつけさせるため、ノートに問題を書いていた。
ガラガラガラ…
隣の部屋から兄の武郎が出て来た。
武郎「今何時だ?」
萌香「もう10時になるわ」
武郎「そうか」
萌香「昨日どうしていてくれなかったの?」
武郎「急な捜査が入ったから」
萌香「電話してくれたらいいじゃない」
萌香は武郎にスープをよそいながら言う。
萌香「彼、お兄ちゃんの事ずいぶん待ってたのよ」
武郎「結婚でも考えてるってのか?」
萌香「そんなんじゃないわ」
萌香は武郎の前にスープを置いた。
武郎「知ってるのか?お前のこと」
萌香は黙った。
武郎「話してないのか」
萌香「…そのうち…話すわ」
武郎「こんな事、言いたかねえけど…お前は普通とはちょっと違うんだ。そこらの事情を…」
萌香「話すって言ってるでしょ!」
武郎「…誤解しないでくれ。俺だってお前の事心配して」
ピーピーピーピー
武郎のポケベルが鳴った。
武郎「仕事だ」
萌香「………」
武郎は着替えて家から出て行った。
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