未成年

□友達の死
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07.友達の死




休日の朝、博人は萌香の家に電話をかけていた。
出たのは萌香の兄の武郎だった。
博人「もういないってどういう意味ですか…?まさか…
萌香はまた入院したんですか…?」
武郎【アイツは幸せになったんだよ】
博人「…え…どういう意味ですか?」
武郎【さあな。とにかく…もう妹には関わりあわんでく
れ】
博人「え?」
電話は切られてしまった。
博人「もしもし…?」
博人は肩を落とし、受話器を置いた。




博人はデクを連れて高架下にやって来た。
デクはアスレチックで遊び始めた。
そばに腰かけているスーツ姿の五郎。
デクは五郎のスーツの上着を奪い、それを着て遊んでい
た。
博人「いい仕事あったか?」
博人は五郎の履歴書を見ながら聞いた。
五郎「あんまな、似合わねぇけどよぉ、アリサの奴がサ
ラリーマンてのがいいって言ってんだよ」
博人「ひははは!!」
吹き出す博人。

デク「うあああ!!」
ドサッ!
デクはアスレチックから落ちて転び、笑っていた。
五郎「お前!!バカ!!」
五郎はデクに駆け寄る。
五郎「俺の一張羅!!おま…早く脱げよ!!」
五郎は急いでデクからスーツを脱がした。
買ったばかりのスーツは土まみれになっていた。
デク「あはははは!!」
五郎「けど、ま!中学もろくに出てねぇんじゃな…」
スーツについた土をはらいながら言う。
博人「お前少年院は出てんじゃねぇかよ」
五郎は博人を睨む。
博人「履歴書に書いといてやるよ。しょ…う…ね…ん…
い…」
五郎「お前コラぁ…!!」
怒った五郎が博人に襲いかかって来た。
笑いながら逃げる博人。
五郎「履歴書返せよ!!」
デク「にゃはははは!!」
デクも面白がって追いかけっこに参加する。




そして3人は河原の道を歩き始めた。
博人「あ、五郎さ、バイクも売ったんだってな」
五郎「ああ。ま、内緒なんだけどよぉ、ウエディングド
レス買ってやろうと思って」
博人「おおー!」
五郎「まだちっと足んねぇんだけどな」
それを聞いたデクは五郎の前に立った。
デク「はい!はい!」
ポケットから10円玉を出して五郎に差し出した。
そんなデクに微笑む五郎。
五郎「気持ちだけもらっとくわ」
五郎はデクの10円を受け取り、ポケットにしまった。
博人「ふふ…」
五郎「やっべ!会社の面接あっからそろそろ行くわ!」
五郎は時計を見て走り出した。
博人「あ、ほんと?」
五郎「じゃあな!!」
博人「おう」
デクは五郎に大きく手を振った。
見慣れないスーツ姿で走っていく五郎。
博人「五郎!」
五郎は振り返った。
五郎「あ?」
博人「スーツ結構きまってんぞ」
五郎は照れたように笑った。
五郎「おめぇら俺に惚れんなよ!」
おちゃらけてそう言うと五郎は走り去って行った。
博人「ははは!」




幸せなんて他人と比べるもんじゃない。
上を見たらキリがないしね。
だからって萌香。
あなたの選んだ生活は本当に幸せと言えるかい?
もう二度と…恋をしないと誓うなんて…




見城家。
担当医の見城の娘、真子の母親になると決めた真子は、
見城の家に身を置き、4歳の真子の面倒を見ていた。
見城の家は庭付き一戸建てで子犬も買っている日当たり
良好の家だった。
真子「ママー」
庭で真子が萌香を呼ぶ。
萌香は笑顔で真子の方に歩いて行った。
真子は庭の花に水をあげていた。
萌香は真子の隣にしゃがんだ。
萌香「綺麗ねぇ」
真子「うん!」




溜まり場となった廃墟の卓球場ではカウンターで勤が勉
強をし、その横で博人とデクが卓球で遊んでいた。
博人「お前、よくこんなとこで勉強出来んな」
球を返しながらそう言う博人。
勤「塾は単に競争意識を植え付けさせる場所さ。僕には
必要ない」
博人「ま、いいんじゃない?」
勤「君達といた方がリラックスしてはかどるよ」
博人「うお!」
デクのスマッシュが決まり、博人が負けた。
博人「ちくしょーー!!もう辞めた!」
デク「あははは!!」
勤は2人を見て笑いながら参考書を開いた。
汗をかいた博人は勤の横に座った。
勤「けど本当…彼女どこ行ったのかな?」
博人「な!あんなに真剣きって告白したのによぉ!」
勤「雲隠れするほど迷惑だったのかなぁ」
博人「…うん…お前傷口に塩塗る気か!」
博人は勤の腕を掴む。
勤「はは!いやぁ…そんな風に見えなかったからさ」
博人「だよな!…嬉しそうだったよな…」
博人は告白した時ん萌香の笑顔を思い出してため息をつ
いた。
博人「あ〜〜〜…」
ふてくされたように伸びをする博人。
デク「あーーーー」
デクも博人の真似をして伸びをした。
博人「真似すんな、お前」
冷めた目でデクを小突く博人。
博人「はあ〜〜…」
デク「はーーー」
それでも真似をしてくるデクを半笑いで睨む博人。
博人「このやろ…!!」
博人はデクをくすぐった。
デク「あーーーはははは!!」
体をくねらせて喜ぶデク。
勤「デクも彼女の事好きなんじゃないか?」
博人「え?」
博人がデクを見るとデクは恥ずかしそうに目を背けた。
博人「なんだよ?お前」
デク「はああああ…」
デクは頬杖をついてため息をはいた。
博人は微笑んでデクの頭をがさつになでた。
博人「お前の方はどうなんだよ?」
勤「ん?」
博人「父親になるって宣言さ」
勤「彼女の両親に話すつもりだ」
博人「実の父親じゃないって…」
勤「彼女のお腹の子は僕の子だ」
博人の言葉を遮るようにして言う勤。
勤「そう言うよ」
博人「…けどさぁ…」
勤「僕が実の父親さ」
博人は呆れたように勤を見た。




その頃、瞳の家。
瞳の父で国会議員の洋造は瞳を力ずくで引っ張ってリビ
ングへと強引に連れて来た。
洋造「誰の子供だ!」
裕子「あなた…!」
必死に止めに入る母親の裕子。
洋造「誰の子供を妊娠したか聞いてるんだ!!」
頭に血が上っている洋造は瞳をソファに押し飛ばした。
裕子「あなたやめて!!瞳の話も聞いてあげて下さい!!」
洋造「何が話だ!!高校生のっ…くせにっ…そんな事…!

裕子「あなた…」
洋造をなだめた裕子は瞳を見た。
裕子「瞳…お父様にキチンと事情を話して」
瞳「………」
瞳は冷めた目をして立ち上がった。
瞳「事情なんてないわ」
洋造を睨みつけてそう言った。
洋造「開き直るつもりか!きさまぁ!!」
バシッ!!
洋造は瞳の頬を平手打ちした。
瞳「きゃあ!!」
バリーン!!
倒れた拍子に飾ってあった壺を割ってしまった。
裕子「ああ!!」
口を手で覆う裕子。
裕子「あなたやめて…」
裕子は泣きながら洋造の腕を掴んだ。
裕子「暴力はやめて下さい…!」
瞳「…殴りたいなら殴ればいいのよ…」
瞳は起き上がりながらそう言った。
裕子「瞳…よく考えて…」
裕子は瞳の肩を抱いた。
裕子「お父様、来年の選挙控えて、今が1番大事な時な
の。こんな事知られたら…その時はどうなると思ってる
の?」
瞳「………」
洋造「裕子、とにかく明日にでも付き添って病院に行っ
て来い」
裕子「…分かりました…」
瞳「あたし堕ろさないわよ」
洋造「なんだと!?きさま!!」
また瞳に掴みかかろうとする洋造。
裕子が体を張って止める。
裕子「瞳ぃ!」
嘆くように瞳を見る裕子。
瞳「あたし産むの!!」
立ち上がって言う瞳。
瞳「もう決心したの!」
黙り込む裕子と洋造。
瞳「もう決めたの…」




夜、高層マンションに帰って来た勤はエレベーターを降
りて家のドアへと歩いていた。
カチャ…
その時、非常階段のドアが開いた。
そこを見ると瞳が立っていた。
勤「瞳…」
瞳の方へ歩み寄る勤。
瞳の口元は赤く腫れていた。
勤「どうしたんだ?その顔…」
瞳「…うん…」
瞳はうつむいた。
勤「…親に話したのか?」
瞳はうなずいた。
勤「僕が一緒の時って言ったじゃないか」
瞳「あなたに迷惑かかるのは嫌だから…」
勤「何言ってんだ!僕が父親になるって…」
瞳「あなたはうちの父を知らないの。自分を守る為なら
…何でもする人よ」
勤「………」
2人はしばらく黙りこんだ。
勤「家…出て来たの…?」
瞳はうなずいた。
キィー…
その時勤の家のドアが開いた。
真紀子「勤さ…」
勤の母、真紀子が顔を出した。
真紀子「何してるの?」
引きつった笑顔で家から出て来た真紀子。
瞳は真紀子におじぎした。
真紀子「お入りなさい」
作った笑顔で2人を家へ連れて行った。
怪しんだ表情で顔を見合わせる2人。




東京開設病院廊下。
見城「患者の血圧はどう?」
看護師「90ぐらいで、ちょっと低めです」
そう言って看護婦は見城にカルテを渡した。
看護師に指示を出し、カルテを返した。
そして診療部屋へと入って行った。
見城「待たせたね」
そこにいたのは博人とデク。
博人「いえ」
見城は萌香のカルテファイルを持って自分の椅子に座っ
た。
博人「萌香の事なんですけど…」
見城「うん…」
そして萌香のカルテを棚にしまった。
博人「家にはいないらしくて大学に休学届も…だから…
ひょっとして…こっちに入院してるんじゃないかと思っ
て…」
見城「彼女とは毎日会ってるよ」
博人「…え…?」
見城「しかし別に入院してるワケじゃない。彼女は私の
家にいる」
博人「…どうゆう…」
話の流れが理解出来ない博人。
しばらく沈黙した後、見城は口を開いた。
見城「彼女が君のお兄さんと別れた事は知ってるかい?

博人「…それが…何か…?」
見城「それがすべてさ」
博人「……?」
見城「命の危険をおかしても愛する人に抱かれたいと思
った。そして拒絶された」
博人「………」
見城「彼女は永遠の孤独を悟ったんだ。もう誰も愛する
事はない」
うつむく博人。
見城「…彼女は私と結婚する」
博人「え…?」
耳を疑う博人。
見城「誤解しないでくれ」
見城は博人の前のソファに腰を下ろした。
見城「私は妻を愛している。事故で亡くなった今でもね
。しかし、まだ幼い娘がいる。…これは単なる契約なん
だ。もう誰も愛する事のない私達の疑似夫婦という形の
…」
博人「…彼女と話をさせて下さい」
博人は見城を睨みつけてそう言った。
見城「構わんよ。別に隠してるワケじゃない」
見城は立ち上がり、電話の所へ行って自宅にかけた。
胸騒ぎを抑えられない博人。
見城「ああ、私だ。真子はどうだい?」
電話の相手は萌香だ。
見城「そう。もう君の事をママと…?ああ、今夜はちょ
っと遅くなる。うん。あ、待ってくれ」
見城は博人に受話器を渡した。
博人は立ち上がり、大きく深呼吸をして受話器を取った。
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