小説

□まごころを君に
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―昔からあまり泣く事のない子供だった。

NEXTとして能力が発動して周りから避けられる様になっても、唯一私の事を可愛がってくれたおばあちゃんが死んだ時も、私は泣かなかった。子供心にとても悲しかったけれど、何故か涙は出なかった。
両親は私のことを気味悪がった。
病院につれていかれたりもした。
カウンセリングを受けたりした。
けれど、何一つ改善はされなかった。
能力があるのにヒーローにはなれない。けして別にヒーローになりたいわけではないけど。わたしの能力はそれほどに瑣末のものなのだ。

―わたしは人間としてもNEXTとしても欠陥品だ。

頭ではそんな思考がループしていて足どりはふらふらと寂れたビルへと足を進めていた。階段を駆け上り屋上を目指した。
もう使われていないそこはわたしの密かなお気に入りの場所だった。
手摺に手を掛けて広がるパノラマを見渡す。

「そこでなにしてんだ?」

誰もいないはずそこで突然声をかけられる。

「何をしようと勝手でしょ」
「おいおい、つめてーな」
「何しにきたの?」
「何も?俺、目はいいんだわ。女の子がビルに入ってくのが見えたからよ」

声の方を振り向くと白いハンチング坊のおじさんがいた。
おじさんはズカズカとわたしの隣まで歩み寄って座った。

「いい眺めだな、よくくるのか?」
「たまに」
「そうか」

おじさんはそういうなり黙ってしまった。何となく出て行くタイミングも逃してしまってわたしも黙り込んで夕日が沈んでいく様を見ていた。
不思議とわたしの心は落ち着いていた。不意におじさんが口を開く。

「…お前さ、NEXTだろ?」
「え?」
「年頃の女の子と思えないくらい辛そうな顔してっからよ」
「………」
「俺もさ、NEXTだからよ。なんとなくわかるんだ」

ああそうか。同じ能力者だからこんなにも心が落ち着くんだ。

「みんな、みんなわたしを気味悪がる。誰も、好きになってくれない…」

わたしは無意識に今まで誰にもいえなかった胸のうちをおじさんに語っていた。
おじさんはただ黙って聞いてくれた。
熱い何かが込み上げてきてわたしはそれが涙なのだと気付いた。
一度溢れたそれは留まる事を知らない。

「っく…」
「泣けよ。辛い時は泣いていいんだ」

しゃくりあげる。
涙は止まらない。
次の瞬間ふわりと暖かいものに包まれた。おじさんの胸が押し付けられる。
そこはお日様の匂いがしてとても安心した。わたしは箍が外れたように泣き喚いた。

それからどれくらい経ったろう。
辺りは暗くなり始めていた。

「ちったぁ、落ち着いたか?」

無言のままおじさんから離れる。
おじさんはわたしが泣いてい間ずっと背中を撫で続けてくれた。

「その…有難う」
「どーいたしまして」

ニッと笑って、お礼はこれで。
とおじさんの顔が近付いてきたと思ったらふわりと頬に柔らかい感触。

「なっ、ななにっ、して」
「おーおー、赤くなって可愛いなぁ」
「せ、セクハラよ!」
「おじさんですから、お前そっちのが可愛いぜ。んなことより帰るぞ。送ってやる」
「話を逸らすな!」

さらっと恥ずかしい台詞。
わたしの発言を茶化すようにかわして、屋上出口へ向かうおじさんのあとを追った。


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