小説

□わがままダーリン
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「バニーちゃん!」

前方からそう僕を呼ぶ声が聞こえて思わず顔が綻んだ。まったく、僕の名前はバーナビーなのに彼女は僕のことを「バニーちゃん」と呼ぶ。

「そんな大声で呼ばずとも聞こえてますよ」
「だってバニーちゃん、全然反応してくれないし」

口を尖らせて不満げに彼女は言った。その表情すら可愛いと思ったけれど、敢えて素っ気なく答える。

「貴女が大げさ過ぎるんです。大体僕はバニーじゃなくてバーナビー」

えー、とやはり不満げなままで、けれどすぐに笑顔になると彼女は言った。

「バーナビーよりバニーの方が可愛いと思うの」
「僕は貴女の方が可愛いと思いますけど」
「もー…またそうやって恥ずかしいこと言う」

今度は赤くなる。本当に見ていて飽きないというか、彼女の表情はくるくる変わる。そういうところが可愛くて仕方ない。今すぐ抱きしめてキスしたい、けど…

「ごほん!あー、そこのお二人さん」

わざとらしい咳払いとともにおじさんが呆れた顔でこちらを見ていた。

「盗み見は止めて下さいおじさん」
「最初から居たけど?」
「ああそれは失礼しました。」

嫌味ったらしく言うと彼女は少し怒ったような顔をしていて僕に訴えてきた。

「虎徹さんと仲良くしないとだめなんだから」
「仲良く、ね」

仲良く、それなら僕は彼女ともっと仲良くしたい。彼女とは付き合っているけれど未だキス止まりだ。それに彼女がおじさんのことを"虎徹さん"と呼ぶのも気に入らない。僕はおじさんを睨み付けた。

「あーはいはい。邪魔者は消えますよ」
「そうして下さい」

おじさんは先に行ってるぞ、と彼女の頭を一撫でして歩いていった。

「行っちゃったね虎徹さん」
「貴女は…僕とおじさんどっちが好きなんですか?」
「へ?」
「答えて」

ここが街中ということも忘れて、彼女の両手を掴み、顔を近づけて目と目を合わせる。

「そんなの…」

彼女は少し怯えたような目をしていて、僕はもう一度同じ問いを繰り返した。嗚呼、僕はこんなにもおじさんに嫉妬しているのだと改めて実感した。

「バニーちゃんに決まってる、よ」

か細く、気恥ずかしそうな声で彼女は答えた。

「じゃあキスして」
「こ、ここで?」
「そう」

どこまで僕は嫉妬深いのだろう。そんな自分に内心苦笑した。彼女は覚悟を決めたのか目を瞑って、と小さい声で言った。言われたとおり目を瞑る。少しすると彼女の唇が微かに頬に触れた。目を開けると彼女の真っ赤な顔が入ってきて、僕はそんな彼女がたまらなく愛しくなって思わず彼女を抱きしめた。

おわり



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