小説

□あなたに好きと言われたい
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―お前には何でも笑って話せる。その言葉は嬉しくも残酷でした。

「お前、未だ独りモンなのか?」
「それはお互い様」

ピアノが流れる場末のバーで私たちはたまにこうして落ち合う。隣に座る彼―アントニオ・ロペスとは高校の時からの悪友だった。なんでも言い合える仲だ。

「男いねぇのか?」
「仕事が忙しいからね」

運ばれてきたカシスソーダを口にしながら曖昧に笑う。仕事が忙しいのは本当。だけどそれ以上に…。

「あんたはどうなのよ?」
「俺はなぁ…その、アニエスさんが」
「片想い?青いなぁ」
「うるせぇ!言ってろ」

彼は少し顔を赤くして声を荒げた。外見ごっついクセに心はナイーブなのは高校の時から何ひとつ変わらない。

いつまでたっても友情から抜け出せない臆病な私といつまでたっても恋に気づかない鈍感なあんた

「結婚したら報せてよね」
「おまっ、結婚って…」

今度は顔を真っ赤にさせて口を金魚みたいにぱくぱくさせている。その様に私は笑った。そしてときどき思うのだ。あんたに愛されたいと。


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