小説

□青春狂想曲
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男に生まれたかった―
体育館を走り回る男子を横目に見ながら名無子はいつも思う。名無し名無子は鴉野高校に入学し、男子バレー部のマネージャーをしている。

「影山トストス!」
「…嫌だ」
「ケチ!」

その中でも一際目立つ二人の少年のやりとりを見てくすりと笑う。同じ一年の影山飛雄と日向翔陽だ。自分もその中に混じれたら、彼らと同じコートに立てたら、どれだけ楽しいだろうと夢想する。

「い…おい!名無し返ってこい!」
「うえ?お、おう!ってあれ…」

気づけば部活は終わってたのだろう。部員の数は疎らで、影山に呼ばれて名無子はふと我に返った。隣には先輩マネージャーである清水潔子の姿は無い。既に片付けを終え切り上げたのだろう。

「清水先輩がいない!」
「ったりめーだ。とっくに帰った…」
「そっか…声かけてくれてありがと影山」
「鍵当番なんだよ」

ぶっきらぼうに影山は言う。名無子は影山を見上げた。”コート上の王様”の異名と取る彼は身長も高くセンスも高い。名無子も中学時バレー部だったがメンバーに恵まれず、まともに部活はできなった。名無子は彼らが羨ましかった。だから一緒にコートを走り回れたらと憧れるのだ。

「私、男の子に生まれたかった」
「なんだ急に」
「影山や日向とプレイしたかった」
「無理」
「きっぱり否定!?」
「お前が男だったら俺が困る」

影山が屈んだかと思ったら一瞬二人の唇が重なる。名無子は何が起きたかわからずただ目を白黒させた。

「二度は言わねぇ。好きだ」
「お、おう?」
「……帰んぞ」

返事を返す前に強引に腕を引かれ名無子は体育館をあとにする。ちらり見えた影山の顔は真っ赤だった。

(影山、今すすす好きって…)
(黙れよばか)

―青春狂想曲


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