幽☆遊☆白書(蔵馬・夢)

□プロローグ。出会い
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出会い


「もう少し頑張らないといかんな。学年5位以内に入れる実力なのだから」
「・・はい」
礼をして職員室のドアを閉める
「はぁ・・」
とため息をついたのは盟王学園高校2年の高橋りんこ。
大きい瞳が少し暗い。


「りんこっ☆どうだった?」
友人の茜がりんこの肩を叩く。
「ごめん。今日はお茶は自粛する」
「え〜!?マジ!?なんで〜?」
「勉強・・」
りんこよりがっく〜と肩を落とす茜。
廊下を歩きながらオーバーリアクションで話す茜
「5位以内って〜・・いっつも赤点の茜はどうすんのよ〜!ってそれより今日は合コンなの!合コン!」
「え・・?聞いてないよ・・お茶って・・」
ブンブンと首を振る茜
「合コン!!テストより合コン!!男!!男!!」
あはは・・とその気合いにたじろぐ、りんこ。
「今日は東涼の男だよ!ポイント高いって!イケメン来るって理香がぁ・・」
「・・・茜、南野君はどうしたの?」

南野秀一
盟王学園高校で彼の名前を知らない人はいない。盟王の生徒、教師はもちろん他校まで。
理由は
天才的頭脳




も含め、そのルックス。
=王子様=
と呼んでいる女生徒もは大勢、女教師ですら恋心を抱いていると噂もある程で
もうアイドル的存在である。

「あはははは!!」
いきなり茜が笑いだしたのでびっくりするりんこ
「!?」
「りんこ〜!どうしたって何?」
「・・・だって。前に好きって・・」
「だって超イケメンじゃん!ってかアイドルでしょ?ファン!ファンだよ!」
「えぇ?」
「目の保養〜って事。付き合う男はまた別に決まってるじゃん。」
目をパチクリさせるりんこ
「りんこもファン?ちょっとこれ見てよぉ売ってたさ〜」
「え?」
「写真写真!さすが我が校の宝よね〜かっこいいわぁ〜」
胸ポケットから手帳を出し写真を眺める茜
その姿に大きなため息をついて茜を置いて教室へ入ろうとするりんこ
「とにかく、今日は行けないから」
「わかったよ〜ぷぃ〜。ホラ〜りんこ!」
りんこの後ろから胸を抱きしめる茜
「きゃっ!!」
「相変わらずロリ顔巨乳〜」
「茜っ!!」
真っ赤になって怒るりんこ
「あはは〜!!今日の合コン成功を祈ってよぉ!それあげるね〜!!」
手を振ってチャイムが鳴る前にと走って去る茜
りんこの胸ポケットには・・南野の写真が入っていた
「・・人の写真をこんな粗末に・・」
りんこはチャイムが鳴ったので慌てて席についた
どうせまた返して〜と茜なら言うだろうから次の教科のノートに忘れないように挟んでおいた






盟王学園高校は有名進学校なので入学する事も難しい
さっきのギャル茜だって一応他校から見ればエリートなのだ。
その中で・・毎回1位をとる男が南野秀一
りんこは話した事すらなかった。多分・・冷たい人なんだろうなと思っていた。
芸能人みたいだし・・



りんこは放課後、ある場所へ向って行った。
部室用に建てられている小さい小屋のひとつの鍵を開ける。
園芸部設立にあたって借りたのだったが新しい入部者がおらず、りんこはただのそこの掃除係になってしまった。
でも今は静かな勉強部屋・・秘密の隠れ家。
パイプイスに腰を下ろして教科書を取り出す。
「・・はぁ」
カチコチカチコチ
部屋の時計が響く。
カチコチカチコチ・・・

コンコン!!
ビクッとするりんこ。
「(先生!?)」
「すみません、ちょっと・・」
男の子の声がする。
入部希望者だ!!
りんこはドアの方へ駆け寄ると
「どうぞ!」と聞こえる声で言った。







ガチャッ

そこから現れたのは・・・
艶のある紅い長髪
翠の瞳
整った顔立ちに高い身丈

「すみません、ちょっと隠れさせてもらっていいですか?」
「み・・南野君・・?」
南野秀一だった。
りんこはこんなに近くで見るのは初めてだったし茜の話のせいでもう芸能人的な感覚を
ますます持っていたので突然の出現に大層驚いた。
「少し、しつこいのがいて・・。すみません、高橋さん」
「え!?」
りんこはこの男がまさか自分の名前を知っている事に驚きを隠せなかった。
「・・高橋さんでしょう?・・間違えました?」
「い、いえ・・高橋です・・」
りんこは胸の高鳴りを静めようと深呼吸をして、立ち尽くしていた自分に気付く。
「あ・・あの・・あ、どうぞ!気になさらずに隠れてていてください!座ってください!」
りんこは自分でこの言葉が正解なのかわからなかったがパイプ椅子を勧めた。
「お言葉に甘えます」
彼はスッと椅子をひいて座る。
少し表情が硬い。
やはり冷たい人なのかな・・。
少し、しつこいのって多分女の子だよね・・。ちょっとあんまりな言い方・・。
「・・勉強ですか?」
「え?あ・・はい。あの部室を私物化してること・・」
南野はクスっと笑った。「そんな告げ口しませんよ」
後の言葉より、いきなりの微笑みに、心が変な動きをした。
「邪魔をしたみたいですね。すみません」
「いえ、大丈夫です・・。難問に当たってて諦めかけていたから・・」
「・・・どこですか?あぁこれですね・・ここは」
「え?」
「座ってください。ここは・・」




私・・南野君に勉強教えてもらってる・・。自分には縁のない有名人に・・。
こんな間近で声が聞けて・・
と思っていたりんこだが適切なアドバイスに段々と夢中になり勉強に没頭していた。
「・・・というわけです」
「できた!すごいです!ありがとうございます!」
ガバッとつい喜びで上を向くと、すぐそこに睫の長い翠の瞳。視線が合う。
「いえ」
またニッコリとされた。
「あっ」
思わず声が出てしまった。あまりにも綺麗で。
「?」
「ご、ごめんなさいっ」
りんこは赤くなりながら今更ながらこの状況に焦り始めた。
男の子と・・しかも王子様なんて呼ばれている人と・・
「もうすぐコスモスが咲きますね。高橋さんの」
「え・・南野君、どうして」
「だって園芸部部長でしょう?高橋さん」
「一人だけの・・。もしかして笑われてるから知ってるのかな?」
りんこは少し悲しそうに笑った。
王子様とは程遠いけれど、私も校内では変な意味で有名だった・・。
進学校の花壇で一人で花とか植えてるメルヘン女・・。
色々なことがりんこの頭を巡り
「勉強ありがとうございました。そろそろ女の子もいないんじゃないですか?」
と少し強い口調で言い放ってしまった。
ハッと我に返るりんこ
「ごめんなさい」
南野の顔を見ると一瞬厳しい瞳をした。
怒らせた!!
「もう少しいてもいいですか?」




また瞳は一瞬で優しく戻る
「え??」
「高橋さんの事は入学直後から知っていましたよ。上手に花を咲かせる人だなって思っていたんですけど」
・・・今まで友達だって誰もそんな事言ってくれなかった。この人・・一体・・。
「高橋さんだって俺のことなんで知ってるんですか?」
「あ・・」
そう言われたら自分もそうだった。噂話だけで王子様とか冷たいとか勝手に想像してた。
本当の事なんて誰も知らないのに・・。
「私の方が失礼でした・・。ごめんなさい」
「謝ってばかりですね。俺の方が迷惑をかけていますから」
この人、優しいんじゃないかな・・。
りんこはそう思った。
「あのお茶飲みますか?」
おずおずと聞く。
「お茶?」
「はい・・ローズティーとか・・嫌いですか?苦手な人もいるから」
「好きですけど・・ここで?」
りんこはふふっと微笑んだ
「秘密ですよ、じゃあ用意しますね」
秘密のポットに水を入れてスイッチを入れる。
他の部室では冷蔵庫を持ち込んでいるところもあるのでお茶を淹れるなんて
可愛らしい秘密なのだが、りんこにとってはこの部室で飲むお茶は、
秘密のお茶会で童話のような胸がときめく瞬間なのだった。
「美味しいクッキーがあるんですよ」
この秘密のお茶会に招待するのは彼が初めてだ。
なんだか私はしゃいでる・・?
こんなこと考えてるなんて知られたら子供みたいって呆れられちゃうかな?
「秘密のお茶会ですね」
「え!?」
思ったことを言い当てられ
バサバサ!!
振り向いたと同時にクッキーの缶が教科書とノートに当たり数冊落としてしまった。
「「あっ」」
二人で拾おうとかがんだ時、ノートからひらりと一枚何か落ちるのが見えた。
「?」
南野がパシッと拾った。一瞬りんこ自身も何か忘れていた。
「・・・あ〜〜〜〜〜!!!ダメっ!!!」
南野君の写真だっ!!!
反射的に南野の手から写真を奪い取ろうとする・・が体勢を崩して豪快に転んだりんこ
「・・・いたた・・?」
あれ・・?痛くない。あれ?
「大丈夫ですか?」




そこが暖かい南野の腕の中だと気付いたりんこの頭はスパークした。
「!!!!!!」
声にならない叫びをあげる。
頭が真っ白に、顔はどんどん熱が上がって真っ赤になる。
「・・・大丈夫・・?」
「あ、ああ・あの・・あ・・」
口は金魚のようにパクパクと動くのに声にならない。
パニックになり過ぎて目じりに涙が浮かんでくる。
あぁもうなんだかすべてが終わってしまった気になる。
「・・・大丈夫」
「・・・ぇ・・・」
ポンポンと頭を撫でられた。
「大丈夫、大丈夫。どこか痛い?」
暖かい優しい瞳。
彼は力を入れる素振りも見せず、りんこを抱えると椅子に座らせた。
「・・ご・・ご・・ごめんなさい・・」
「何故・・?」
何故と言われたら返答に困ってしまう。うつむいてしまった顔を
南野に向けると、彼はヒラヒラと自分の写真を顔の横でなびかせていた。
「あ・・!」
「これって・・俺の写真・・だよね?」
確認するまでもなく南野修一その人本人の写真である。
「う・・あの・・それは・・」
友達から貰ったものだと説明するのも彼に対して失礼な気がする・・。
どうして、こんな言い訳を考えているのだろう。
嫌われたって構うことなんてない。自分には縁のない人気者なのに。
彼がここを出て行けば、もう話すことなんてないのに・・。
そう思った一瞬、胸がズキリと痛んだ。
どうして・・?

シュンシュンシュンシュン
お湯が沸く音がする。
ハッとして立ち上がり彼に背を向けカップにお湯を注ぐ。

「・・・ごめんなさい。不愉快ですよね。自分の写真をそんな風にされたら・・」
どんな言葉が返ってくるのか、胸がズキズキしながら早くなる。
「・・俺も、高橋さんの写真持ってるよ・・」
「・・そうですか・・・えぇ!?!」
ものすごく見当違いな返答にまたパニくるりんこ。
「わ、私の!?!!?」
彼は携帯の待ち受け画面を、りんこに見せる。
ヒマワリがたくさん咲き誇っている。
「あ・・・これ・・」
去年、りんこが一人で植えて真夏にずっと水遣りをしていたヒマワリだ。
誰もが横目で通り過ぎるヒマワリ。
それでも時たま「夏だね〜」と話題に出されている声を聞くのが嬉しさだった。
こんな風に写真を撮ってくれている人がいるなんて・・
「ここ」
「え?」
遠目からとったヒマワリの群れの横に小さくエプロンをして帽子を被って水やりをしている・・りんこだった。
「は・・恥ずかしい・・こ、こんなおばさんみたいな・・」
「素敵じゃないですか。お茶、いただきます」
部屋にバラの香りが咲き乱れる。
もう、自分はこんなにペースが乱れているのに彼は何事もないかのように
ゆっくりとお茶を味わっている。
結局、彼の写真はクッキーを載せたお皿の横に置いたままで話は終わってしまった。
誤解されたままで、もう話すこともないのか・・。
それでも、もう仕方ない。
「とても美味しかったです。じゃあ、そろそろ・・」
秘密のお茶会の奇跡な時間は終わりを告げた。
なんだか少しの間にたくさんの感情が心に走った気がする。
名残おしい・・
そんな気持ちは一切顔には出していないつもりだった。
「色々、すみません、お勉強も教えてもらってありがとうございました。」
「お礼を言うのは俺のほうです。お邪魔させて頂いてお茶までご馳走様でした」
彼はそういうと、優しい瞳で微笑んだ。
りんこもそれを見て、自然と笑みがこぼれる。
いい思い出になりそう・・りんこはそう思い立ち去る彼の背中を見送るつもりだったが
「また来てもいいですか?」
「え・・?」
「また、お邪魔したら迷惑かな?」
「え、そ、そんなことないですけど・・え」
彼はニッコリと口端を上げて「ありがとう、じゃあまた明日」と言って扉を閉めた。

それが、高橋りんこと南野修一の出会いだったのである。


ビュッ
彼の周りを妖怪達の血しぶきが飛ぶ。
「おい、蔵馬」
見上げると電信柱の上に人影が見える。
「飛影か、そちらにも来たんですか?」
「ただの雑魚だ。お前、さっきまでどこにいた?完全に気配が消えていた」
「秘密の花園でお茶会でした」
「?」
「小うるさい雑魚だったけど、感謝しますよ。花園に入るキッカケをくれたから」
わずかに彼の口元に笑みが浮かんだ。
 

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