青の祓魔師(雪男・長い夢)

□任務
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荷物は事情がわかる燐に預けて
急ぎ任務の集合場所へ向かうと知った人影が見える。


「よぉ。久しぶりだな」
大きい胸が上下に揺れる。その派手な格好は・・。

「シュ・・シュ、シュラさん!?ど、どうして・・ここに!?」

「あ〜そうかお前何も知らないんだなぁ」

頭を掻きながら面倒くさそうに話す。

シュラさんは私の先輩で、上司でもある。
ヴァチカンでは直属の上司ではなかったけれど私にとっては
きっと一生頭の上がらない人だ。

小さい頃からの情けない姿をずっと見られてる。
長期出張に出るとの話は聞いていてけど、何故日本に・・。

「お前こそ、どうした?何故、ここにいる?」

逆に聞かれてしまった。

「そ、それは・・」
「色恋沙汰で首突っ込む話じゃないぞ」
ぐっ
いやだ。何も言えない。
ただでさえ、しえみさんのことでこんなに動揺しているのに。
でも・・

「そんなつもりじゃありません」
「そうか、ならいい」
「え」
「ただひとつ言っておくが、お前も悪魔の子として見張られている立場ということを忘れるな。そんな目で悪魔祓いをして悪魔堕ちにでもなられたら困るんだ。
気を引き締めろ」

本当にその通りだ。
祓魔師になったからといって正十字騎士団に認められたわけじゃない。
むしろ
何か誤ちを犯せばすぐに処分される。
私の存在理由、裏を返せば私の存在を消す存在。

「・・・」

「可愛い妹分を始末するなんて御免なんだよ」

・・・シュラさん・・。
ぽんぽんと頭を撫でられた。
この人は本当にすごい人・・。
もう、また感情がぐちゃぐちゃ・・。


「お前も雪男と同じでほんっとすぐ泣くな!」
「雪男はそんなに泣きませんよ〜・・」
シュラさんは雪男を泣き虫だとかすぐ言うけど、私の前では雪男はそんな
すぐ泣いたりしなかったんだけど・・。
「どこが氷の少女なんだか・・ほらっ行くぞ!」



援護が数人来ていたが、私とシュラさんですぐに片付いた。
シュラさんが来るような任務ではなかったので
きっと私と話をするためにわざわざ出向いてくれたんだとわかった。
援護の人からは、賞賛と憐れみと恐れの混ざった目を貰った。
もう慣れたこと。


「どうぞ」
温かい缶コーヒーを渡す。
「サンキュ」
「・・・じゃあシュラさん、燐の先生に?」
「まぁそんなとこかな。お前が来る少し前には生徒として潜入していたんだけどね」
私はミルクティーを飲み込んだ。


「よかったな」
「え?」
「さっき色恋だの言ったけど、きちんと自分をしっかり保てるなら
楽しんで生きていいんだ。雪男の傍で過ごせるようになってよかったじゃないか」
「は、はい」
もう、なんでもお見通しなんだな・・。
雪男への想いなんて話したことなかったのに。

「でも本当に、状況はいいわけじゃないから面倒なことに首を突っ込んでる自覚はもっておけよ。傍にいるならしっかり支えとけ。なっ」
「わっわっシュラさん痛い〜」
シュラさんにヘッドロックされ、大きな胸が私の息を止める。
「何があったか知らんが、元気だせ〜まだ始まったばかりじゃないか。迷ってもいいが腐るなよ」
「はっはい!」
何から何までその通りだ。
シュラさんありがとうございます・・。




寮の電気は消えてる。
もうこんな時間だもの、二人とも寝てるよね。
夜中に見ると本当に不気味な寮だわ・・。

でもうるさい音を立てないように、ゆっくりゆっくり玄関の戸を・・。

ギギギ・・。


「おかえり、胡蝶」
「きゃ」
「ご、ごめん驚かせて」

雪男・・。

「いえ、ただいま・・。ごめんなさい。起こしちゃった?」

「ううん、待ってた。ご飯まだじゃないの?」
そういえば、紅茶は飲んだけどご飯はまだだった。
「お茶漬け用意してあげるよ」
「え、そんな・・」
「おいでよ」



温かなお茶漬けが目の前に出される。
「美味しい」
「そうでしょ?きちんと食べないと健康管理も仕事のうちだよ」
「はい」
雪男はなんだかすごく優しい顔をして私を見てる。
緊張して食べづらい・・。
でも嬉しい・・。


「学校も祓魔塾も任務も立て続けで疲れた?わざわざ胡蝶に今日任務をさせることないのにね」

私は、私は
雪男の役に立ちたくてここに来た。
私は悪魔の子だし、雪男の何かになる資格もない。
支えになることを幸せだと考えよう。
でも多分、嫉妬とかしちゃう。
そういう醜い自分がいることを今日はっきり確認した。
そういう気持ちを抱えながらも傍にいたい。
いつかそんな気持ちも昇華させて
雪男の幸せを私の幸せだって思えるように。


「胡蝶?」
「あ、ごめんなさい」
「あの、今日さクラスの男子から色々胡蝶のこと聞かれたよ」

「え?私のことを?やだ・・。なんだろう、生徒で私を知っている人なんて小学校の同級生とか?中学の同級生なんて殆ど知らないし・・」
過去を知っている人にはできるだけ会いたくない。

「違うよ。そうじゃなくて、胡蝶のこと狙ってる奴がいるよって」
「えぇ!?一体!?」
「あ、そうじゃない。だから、胡蝶のこと可愛いって近寄ろうとしている男がたくさんいるから」
か、可愛い?
私のことを可愛いなんて?
悪魔なのに?まぁ一般の人は知らないけど・・。
そんな、そんなこと言われても
知らない男の人に言われてもな・・。


「だから、お昼は僕と一緒に食べるようにしよう」
「え!?」
「・・まぁ他に食べたい人が胡蝶にできるまで」
「いいの・・?でも、しえみさんは?」
「しえみさん?彼女は祓魔塾のみで学園には来ていないんだよ」
そうだったんだ。
お花の話で盛り上がってしまって聞くのを忘れていた。
じゃあ雪男、しえみさんと会えるのは祓魔塾でだけなんだ・・。

「チャイム鳴ったら迎えに行くから、すぐに出て来てね」
「ありがとう、なんだかごめんね。気にかけてもらって・・」
もっとしっかりして、雪男の手を煩わせないようにしないと。
でもお昼休み一緒にいられるの嬉しいな・・。
ちょっと口元が緩んじゃう。






「胡蝶、僕は・・」






「え?」






「・・・僕は・・・」




雪男・・??




なんだろう、ドキドキする・・・。




バタン!

「むにゃぁ〜・・雪男ぉー胡蝶〜帰ってきたのかぁむにゃむにゃ・・」
「あ、燐!起こしちゃった?寝ぼけてる?」



「みずぅ〜・・」「お水?待っててね〜燐なんか可愛い。ふふ」



「・・・はぁ〜〜〜」
雪男は深い溜息をついた。
 

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