青の祓魔師(雪男・短い夢)

□悪夢
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「きゃあっ!・・・あ・・・」



真夜中、胡蝶は悪夢を見て目覚めた。

小さい叫び声をあげたようで、心臓は激しく動いている。


「ふぅーーー・・・っ」

心臓を握るように、パジャマの胸元をぎゅっと握る。

暗い森の中や、廃墟に悪魔を滅するために単独でも乗り込む。
そんなことにも慣れてきている自分が
ここまで恐怖するなんて・・・。

夢の内容は覚えているような、覚えていないような・・・。

恐怖をただ、脳に叩きつけられた気分だ。
いつも平気な
薄暗い部屋も、何故か不気味に思える。



カチコチと時計の音がする中
胡蝶は部屋のドアを開けた。

まるで子どものように心細く、温もりを求めたい。
冷えた空気はますます心を挫けさせる。




「・・・トイレにも行きたくなっちゃった・・・」



元々、旧男子寮の内装はかなり古いもので
普通の感覚であれば夜中に一人で歩くなど、恐怖するのが当たり前。



「今日は、なんだか怖いよぅ・・・」



このまま、恐怖が続けば仕事にも影響が・・などと
夜の闇は不安を誘う。
もう一枚の扉を開ければ、全ての不安を拭ってくれる存在がいるけれど
時計を見れば丑三つ刻。

起きているはずがない・・・。




扉の前までは歩いて、でもドアノブは回せない。



ぬいぐるみを抱きしめたまま、諦めて自分の部屋へ戻ることを決める。





「明るくなるまで、我慢・・・」




自分の部屋のドアノブを回すと同じタイミングで
後ろのドアが開いた。




「胡蝶・・・?どうしたの・・・?」
「っ!雪男・・・っ」




振り返りそのまま抱きつく。


「!ど、どうしたの」

雪男は兄を起こさないように、小さく囁き、抱きついた胡蝶を気にしながら
胡蝶の部屋に入っていく。




「胡蝶・・・どうしたの・・・?」
抱き締めて頭を撫でながら、ゆっくり囁く。



「怖い・・夢見たの・・・」



雪男はあまりに小さく震える彼女を見て
意外に思いつつ愛しく思う。



「僕のところに、すぐに来ればよかったのに」
「だって・・・」
「兄さんはちょっとじゃ起きないよ」
「寝てるとこ、起こしちゃ・・・」
「胡蝶は特別だから、怒ったりしないよ」



普段はしない、彼女からの強いハグは嬉しいが
間にぬいぐるみがいることが少々不満である。
それも自分からのプレゼントなので微妙な気持ちだ。




「今日は一緒にいるよ。朝まで」
「えっ・・・」

「だから安心して眠って」


彼女の身体がこわばって、多分恥ずかしくなってきたんだと思う。
拒絶されるかな?と思ったが
か細く

「・・・うん・・・」

と聞こえた。
雪男は嬉しく思ってしまったが、それほど怖い夢を見てしまったということで心配になる。


「大丈夫?どんな怖い夢見たの・・・?」
「あまり・・・覚えてないの・・・」
「そっか・・・」



柔らかい髪を撫でる。
最近、節約で三人で同じシャンプーを使うようになったのだが
何故か自分や兄とは全然違ういい香りがする。



「あの・・・」

するすると腕から抜けるように胡蝶が離れた。
下を向いて、雪男のシャツの裾を掴んでいる。


「もう、寝る?ホットミルクでも淹れてこようか?」
「う・・・違うの・・・」
「? 一緒に寝ても、何もしないよ?約束する」



雪男が頬を撫でると、胡蝶はシャツも離してしまった。
「ち、違うっ!・・・・あの・・・」


「ん?・・・」


「あ、あの・・・」


「あ、あぁ・・・そっか・・・」

もじもじした様子を見て察する雪男。



暗い廊下を手を繋いで歩く。
着いた先はトイレ。
寮のトイレなので、学校のそれと大して変わらない。
古い蛍光灯がたまにチカチカと点滅している。
当然、不気味だ。


「どこまで一緒に行く?」
「じゃあ、こ、ここで。ごめんなさい」


女子トイレの入り口で雪男は待つ。
帰りに調理場に寄ってホットミルクを作っていこう。

ガタガタっと風で寮自体が揺れるような音がした。
トイレの中の窓も大きく鳴ったのか、小さく悲鳴が聞こえた。


「胡蝶、大丈夫?」


何かあれば入る決断を最初からしていたのでドアを開けてみると
慌てて個室から出てくる胡蝶が。

「う、うんっ怖い、びっくりした・・・そ、そこにいて・・」
「うん。いるよ」


はぁっと彼女は溜息をついて、手を洗う。
線は細くても、彼女も祓魔師。
一般男性よりも度胸は上だ。
どれだけ怖い夢を見たのか先ほどよりも心配になってきた。


「大丈夫?何か処方するかい?」
「ううん・・・明日になれば、大丈夫・・・だと思う。なんだろうね。すっごく怖い夢でまだその感覚が残ってる感じ・・」
「僕がいるから、大丈夫だよ」


手を差し出して、調理場へ向かう。
先ほどの風が呼んだのか雨が降りだしたようだ。


「カモミールミルクティーにしよう・・・」


コトコトとお湯を沸かす後ろ姿をそっと抱きしめる。

「ごめんね・・・」
「気にしちゃ駄目だよ。僕は良かったよ。胡蝶と温かく眠れるんだもの」

雪男の顔の下で、胡蝶がクスリと嬉しそうに笑う。
自分が回した腕を、大事に両腕で包んでくれる彼女を本当に愛しいと思った。


カモミールミルクティーは一番大きなマグカップに入れて二人で飲むことに。






部屋の窓も風と雨でガタガタと鳴っているが
胡蝶も大分、落ち着いてきたように見える。

湯気が立つミルクティーを二人で分けて飲む。


「あつぅ・・・」
「ほら、ふーっふーっ」



ベッドに二人で座り
安心したいつもの笑顔になってきたので、雪男も安心する。



「寒くなってきたね」
「うん」
「僕ももう、こっちの部屋で暮らそうかな」
「えっ」
「なんてね」
「もうっ」


胡蝶の優しく叩いてくる腕を掴んで抱き寄せた。

「そろそろ、眠れそう・・・?」
「うん・・・ありがとう・・・」

背中を優しく撫でる。
全てが柔らかくて抱きしめてる自分が心地よい。

「さっき、何もしないよって言った時、胡蝶は違うって言ったけどつまり、してもいいってこと?」
「ひぇっ?」

つい、吹き出してしまう。
「もう〜からかって〜〜」
「はは・・」



雪男は先にベッドに横になった。
大きく手を開く。

「何もしないから、おいで」



大きい腕の中、自分の居場所。
先ほどの恐怖は一切なくなった。
優しくて、優しくて、最近たまにちょっと意地悪。



「少しなら、いいよ」

「えっ?」

「嘘っ」

「えぇ」





「大好き」「うん」




二人じゃ狭いベッドの中も
世界で一番幸せな場所。
寒ければ、寒いほど、あなたを愛しく感じます。
怖い夢は、愛しい夢に。


おやすみなさい・・・・。














おまけ


チュンチュン
晴れやかな朝。

「んぁ?雪男のやつ、制服もあるしどこ行ったんだぁ??
おーーーい!胡蝶起きてるかー?(ガンガン)
朝飯できたぞーー!!早く起きて出てこいー!!(ガンガン)」


「「あわわわわわわ」」


終わり☆彡

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