長編2

□序章
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【 LAST INTERVAL 】


死ねない街で死なない事について。もしくは、死なない街で死ねない事について。
終わりの無い場所で一人だけ依怙贔屓されている、そこに果たして、理由はあるのか。














「試されてるのかもね」

と、不意に彼女は顔を上げる。
髪も瞳も揃いの漆黒に染まった、幼い少年にも見える少女。
その華奢な姿は淡々とした言葉を紡いでいく。

「人間はいつだって試される。神様はよくそういうことをする。それを馬鹿にされてると思うべきか、それとも何かを得るためのチャンスを与えられたんだと喜ぶべきなのか……いつまで経っても、分からないけど」

神、なんて、私が概念ですら理解できていないような存在をまるで知り合いか何かのように語り、彼女ははにかむように少しだけ笑ってみせた。
よく見るどころか寧ろ珍しいその笑顔に、思わずつられて微笑めば、突拍子も無い話を聞いた後なのに少しだけ気分が落ち着く。
そのせいだろうか、

「ねぇ、私はどうしたらいいのかな」

正直な問いかけがするりと口から滑り出た。

「それは……」

少女は言い淀む。
自分でも、わかってる。きっと、これはこの子に教えてもらうようなことじゃない。それでも、訊かずにはいられなかった。
やがて小さく、それでいてまっすぐな声が耳に届く。

「それはオレに訊かれてもわからない。こんなこと、初めてなんだ。……それにオレは、なにが正しいのか間違っているのか判定できるような立場じゃない」

耳障りのいい正論を舌に載せながら、いかにもか弱く見える少女の右手は自分の胸元へ副えられていた。着ているパーカーの、ファスナーを飾る赤い組紐を庇うように、確かめるように握り締める。

「今なら何も、聞かなかったことに出来る。それに……蛇の唆しに乗ることも」

穏やかな言葉は、でも、と続く。

「どっちにしても、それは」

そして凛と、その黒い瞳で私を射抜き、彼女は言った。




「自分で決めるべきだよ、怜乃」





【end】

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