捧げ物 / 貰い物
□林檎飴様へ!1000hit
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「ニーハイがずれてくるってどういうことよ!ほんとに食べてるの!?」
「食べてるよ。にーはいってなに」
「今履いてるソックスよ!」
「ああ、この靴下。足首に溜まって邪魔だよ」
「もう!細いんだからいっそもっと手足出しなさいよ!」
「防御力さがるからいい」
「何から守るの!?」
「……敵?」
「いい加減にしなさいよめくるわよ!!」
「何を」
「はい次これね?」
ギグルスとの攻防戦を一刀両断してペチュニアが渡してきたのはふわふわひらひらしたワンピース。
ちなみにオレが今着ているのは褐色の短いズボン(しょーとぱんつ?)と袖のない赤い上着。両手を広げると蝙蝠みたいになる。動きづらい、これ。あと、太腿晒されてるのもすごく嫌だ。
「ええっと、臙脂色ね。いいじゃない!」
何故かギグルスが受け取って批評している。
「イチってば色が白いもの!こういう色が似合うのよ?」
ペチュニアはまたしてもオレの服を脱がそうとするので、もう諦めたオレは自分で着替えることにする。
「肩とか腰とかひらひらしてる」
「レースよ」
「裾とか袖とかふわふわしたのついてる」
「フリルよ!」
なんでギグルスはまだ仁王立ちなんだろう。
二人の監督の下、ワンピースを被る。うわぁ、これ、
「重……」
ただの服なのに。
「ほら、後ろ向きなさいよ」
「リボン結んであげるわね?」
そんなものまでついてるのか。
「こういうのはギグルスのほうが似合うんじゃないの?」
訊いてみると自信たっぷりな返答が返ってきた。
「わたしはもっと明るい色が似合うのよ!」
すごいな、そんなの分かるんだ。
感心していると試着室に一人取り残される。二人はオレが着替えるたび、『遠くから見たいから』と距離をとる。よく分からない。
「やっぱり似合うじゃない?」
「そうね!元が細いからフリルが嵩張りすぎないのよ」
「お人形さんみたいだわ。ただ、そうねぇ、」
「ペチュ?」
「ねぇ、イチ前髪切っていいかしら?」
「えっ」
言われたい放題だ、と思っていたらさらりとそんなことを言われて焦る。
つい両手で髪の毛を押さえた。切るって、どこまでだ。
「あら、」
「え。切らない、よ?」
「違うわよ、」
何事かと思えば、ペチュニアはオレの左手首をじっと見つめていた。
「フレイキーったら、ちゃんと渡せたのね」
そう言って本物のお姉さんのようにふわりと笑う。
これ。この間貰ってからずっとつけてる……なんだろう、ブレスレット?でも願掛けしたからミサンガか。
「うん。二人もありがとう」
礼を言えばギグルスは不思議そうな顔をしていたので、
「二人がフレイキーのこと励ましてくれたお陰だから」
手首を掲げて指で指し示すと、ギグルスは黙ってしまった。
「ギグルス?」
「ふふ、ギグは照れてるのよ」
「照れてないわ!」
そう叫ぶがギグルスの耳は少しだけ赤くて、
「ギグルス、ありがと」
覗き込むようにして、オレは言った。
「もうゆるしてかんべんしてよ」
仁王立ちするピンク色の少女をへたりこんで見上げながらオレはどんよりと言葉を吐き出した。
試着って、服着て脱ぐだけなのになんでこんなに体力削がれるんだろう。意味が分からない。
「まだよ!全然まだよ!!」
……あの後、みるみる顔赤くしたギグルスはだっと試着室から離れると、報復のように夥しい数の洋服を抱えて戻ってきた。
それをひたすら脱いでは着て、脱いでは着て、着ては脱いで。
ペチュニアは面白がって止めてくれないし。
――正直、金目のフリッピーのナイフと向き合っている方がマシだと思った。さすがに口に出しては言わないけど。
【フリルとディシプリン】
結局、妥協に妥協を重ねた結果、オレのズボンは黒いまま少しオシャレになった。
【end】
→あとがきと言い訳