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□元拍手九月
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見知った顔、見知らぬ顔が混在するどんちゃん騒ぎ。

その時、オレが何をしていたかといえば淡々と酒瓶を空にするフリッピーを遠くに見ながら感心していた。ペチュニアとギグルスに「食べなさいっ」と皿に盛られた料理がそろそろ胃に重い。オレを含め酒を飲まない子供達のためのオードブル。近くではアルコールが徐々に重くなってきたらしい元海賊が、二日酔上等とラム酒を呷る。
昼間から酒浸りという若干背徳的な宴会はそれなりに平和だった……筈だった。その時、轟音が響き渡るまでは。

──なんと言うかまあ、確かに何か忘れている気はしていたのだ。



「酷いじゃないか皆!僕を除け者にしてっ!!」


その『皆』の一部十数名を何故か持っていた看板で薙ぎ潰しながら空色の髪の男が舞い降りてきた。
誰かなんて言うまでもなく、そしてその誰かさんの起てた騒音によって言うまでもない二次災害に空き瓶の一本が血に染まる。

「げっ、ヒーロー……っ、フリッピーまで覚醒しやがった……」

恐らくはその場の総意を代弁するかのようにラッセルが小さく嘆く。先程までと違い顔色は悪い。つまりはまともな反応である。

「そういえば英雄居なかったな……」
「しみじみ言ってる場合か!」

ぐい、と腕を引かれるが、すぐ背の木にぶつかりそうになり二人して慌てて立ち止まる。
そもそもいくら英雄が居るからといって、いや、寧ろ英雄による苛つきによってもうそろそろこちらにもナイフの一本や二本飛んでくるだろう。よけることは出来るかもしれないが、逃げることは危うい。ラッセルもそれに気付いたのか渋い顔で振り返る。当然オレもそれに倣う。差し迫る危機に対するために。
ところが──

「ん?」
「え?」

フリッピーの様子が、おかしい。

てっきり既に数名分の血が舞っているものとばかり思っていたのだが、最初に殴った一人を除けば、フリッピーの周りには誰も(ヒーロー除き)居なかった。獲物が逃げたのにも関わらず追わないのだ。それどころか何と無くぎこちない動きで漸く英雄の方に視線を落ち着けたような体である。
さらに軍帽はとっくにずり落ちた若葉色、その頭はふらふらと定まらず、つい先程までなんとも無かった筈の頬や耳が微かに赤く染まっている。

──まさか。

「酔ってる……?」

俄かには信じがたいが、フリッピーの動きは完全に酔払いのそれだ。

「おいおい、そりゃねぇだろうよ。あちらさん、さっきまでがばがば呑んで素面だっただろ!」
「……急に、うごいたからとか」
「嘘だろ!?」

オレに言われても。しかしそう言い返そうする一瞬前に聞こえてきた声に、


「よぅクソヒーロー、あいたかったぜぇ!」


オレ達は同時に確信した。
酔ってる。絶対に酔っている。あっちのフリッピーが正気であんな……言うくらいなら恐らく自爆するだろう。

言葉だけ聞けば博愛の台詞を吐き捨てながら、金目フリッピーは持っていた一升瓶を地面で叩き割った。そのぎざぎざの切り口の用途は想像に難くない。しかし、その割った酒のニオイでまたふらついているのだからどうしようもない。

「……ッ!」

一方で都合の悪いこと(視覚)は無視し、都合の良いこと(聴覚)だけをしっかり受け止めた英雄は、暫しフリーズした後感極まったように叫んだ。

「僕もだよ覚醒くん!!」

もしくは水を得たサカナ。

「ええー、なになに、何であそこちょっとバカップルみたいになっちゃってるのぉ?」

気付けばランピーがフレイキーを引き連れ傍らに避難してきている。赤毛の子は例に漏れず顔面蒼白である。まあ、これから始まるであろうヒーローショウ(仮)に想像を巡らせ顔色を変えているのは、別にフレイキーだけではないのだけれど。

「……ばかっぷるじゃなくて、ただのボッチとヨッパライなのにね」

思わず漏らしたオレの呟きに、隣でラム酒が噴き出される気配がした。


(覚醒くんやっと僕の友情を認めてくれる気になったんだねおっとさっそく遊んでくれるのかいあはは危ないよ手を切ってしまうああもう僕はてっきり皆に嫌われてしまったのだとばかり思っていたよしかしそんな訳がなかった僕も冷静さに欠けていたよそうだ誰だってうっかりすることはあるよね大丈夫だよ全然気にしてないさだって僕はヒーローだからね!)



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