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□元拍手十月
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(『All in vein』ネタ)



思えば昔は大変だった気がする。

電話も車も、そもそも出張サービスなんて概念が存在しなかったあの頃。わざわざ街中まで彷徨い出ては足を棒にして歩き詰め、ただでさえ人通りの少ない真夜中の路地で、人影を見つけられればもうけもの。
そうでなければ……。

そんなことを考えながら、由緒ある古城の棺桶の中で僕は目を覚ました。















山道を登ってくる控えめなエンジン音。
夜の帳に相応しくないライトが暗闇を丸く切り取りながら近づいてくるのを二階の窓から見ていれば、やがて、ぎんごーん、とチャイムが鳴る。──この音さぁ、さすがにどおかと思うんだよねっ。時代遅れとかいうレベルじゃないでしょう?錆びちゃってるんじゃないかなぁいい加減。

「はいはぁーい、今行きますようーっと」

叫びながら念のため、殊更どたどた言わせながら階段を下りた。いま向かってまぁすよってアピールね?たまにいるじゃない?チャイム連打する人ー。ああいうのホントやだよねぇ。
玄関ホールに向かいながら僕は頑張って思い出す。
んんーっと、今日頼んだのはなんだったけ?前はピザだったからそれはナシ、その前はぁ……なんだっけ、興信所だったかなっ?だめだなぁ、頼む内容なんてどーでもいいからすぐ忘れちゃう。

そうこうしてるとあっという間にドアの前。ところどころ塗装の剥がれた木製のソレに、んーチャイムだけじゃなかったかぁと笑いかけて、その瞬間ふとひらめいた。あ、そうだ思い出した。
──今日の出前は協会の司祭様。ほんとは俺にとっては鬼門なんだけどね、だってタダで来てくれるしさっ?

「どぉも、こんに──こんばんわっ」

にっこりしながら扉を開ける。
つくづく、便利な世の中になったもんだよねぇー、不便だったあの頃がうそみたぁい!
だって、夜中でも電話一本で、『餌』が自分からやって来てくるんだもんっ。




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