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□元拍手連載
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ほかほかと、全てのものを太陽が照らす小春日和の昼下がり。
人気(ひとけ)の無い公園の中ベンチに腰掛け、さっきまで、確かにひとりで本を読んでいたはずなのだが。

「よっ、アリス」「お前暇だろ?」
「……ありす?」

ふと気付けばいつの間にか目の前には見慣れた双子の姿があった。
ていうか、ありす?オレに言ってるのか?

困惑するオレを他所に、二人は両側から腕を取り強制的に立たせようとする。

「えっと、なに。シフティ、リフティ?」

特に抵抗する理由もないので大人しく直立してみるが……何か用だろうか?
すると、

「シフティじゃねーよトゥイードルディーだ」
「リフティじゃねーよトゥイードルダムだ」

「……は?」

明らかにオレの知り合いの筈の双子は全然知らない名を名乗りながらずるずるとオレを引っ張っていく。

「「アリス、お前ちょっとシロウサギを何とかしてこいよ」」

白兎?なんだそれ?

「何それ、嫌だよ。いま本読んでるし」

断りながら、断っても引き摺るのを止めない二人に言えば、同じ顔はぐるんとこっちを振り向いた。

「ハッ、本なんかどーでもいいだろうが」
「そんなん俺らが売っぱらっといてやるよ!」

「よくないし売るなよ」

「「ほら着いたぞ」」

ユニゾン。
どこに着いたのかと辺りを見渡してみても別にどこにも着いていない。
何がしたいのか二人に問おうとして、気が変わった──足元の先を見る。


そこには真っ黒い穴があった。


オレの記憶が正しければここには何の変哲もない地面が続いていたはずなのだが。
慎重に近づいて、それを覗いてみたが深すぎるのか底が見える気配が全くしない。

「シロウサギはさっきここに落ちて行った」
「降りて行ったんだよ、馬鹿」
「バカって言うなっつーの!」
「ハッ、あいつ急いでたな」
「そうだな、じゃ、アリスも急がないとな」

斜め後ろ、左右から聞こえる声に尋ねる。

「どういうことだよ、……えっと、シフティがダムでリフティがディー?」
「シフティじゃねーよトゥイードルディーだ」
「リフティじゃねーよトゥイードルダムだ」

……ん?

「さっきと、逆?」

思わず首だけを捻り、振り返ってみれば二人は顔を見合わせるとひひっと笑った。

「どっちがどっちなんてどーでもいーんだよ」
「どっちがどっちだとしても何も関係ねーよ」

その非常に愉快そうな台詞と共に、
どんっ、と背中に衝撃を受けた。

「──え」

「「アリス、白兎を追いかけろ」」

双子に突き落とされたのだと気付いたのは、どこまでも続いていそうな穴の中に、とっくに落ち込んだ後だった。


(ようこそアリス、不思議の国へ)


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