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□元拍手十一月
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【PM5:45】



十一月にもなると、日が落ちるのが非常に早い。
辛うじて山の端が赤く残る藍色の空を窓の外に、しかしそんな景色を目に留めることもなく蛍光灯の下で可愛らしい声を飛び交わせるのが少女という生き物である。

「どうしてくれるのよ、太っちゃうじゃない!」
「そうね、なら食べるの止める?」
「いやよ!だって美味しいんだもん!」

短めのプリーツスカートを翻しながら立ち上がり、ギグルスは叫んだ。
その勢いのままに新しい箱を開ける。

「それに勿体ないものねぇ」

さっきからギグルスを宥めつつ、笑顔で状況を楽しんでいるペチュニアもそれに倣った。
といっても、殆どの箱は元から切り取り線が破られ、袋も開封済みであるので、蓋を外す、という表現の方が近い。

「イチも何考えてるのかしら?」
「それよね、私とペチュがここに居たからいいようなものでしょ?」
「居なかったらナッティのところに行ってみたかも、とは言ってたわね」

少し前に尋ねてきた小柄な先輩を思い起こしながら、ペチュニアは頬に手を当てて思案する。
先輩といってもあたり前のようにお互いにタメ口をきいているし、指定ブレザーの代わりに黒いフードを羽織った、妙なところで子供っぽい彼女のことを年上だとは普段あまり思えないのだけれど。そもそも小中高と一貫私立のHTF校は面子が代わり映えしなさ過ぎて先輩後輩の垣根は殆どない。大体、ギグルスとペチュニアの二人にしたところで一学年の差が、もっと言えば中等部と高等部という大きな垣根があるのだが、そんなことを感じている者はこの学校に居ない。

「何にせよ、この量はないわよ!」

ペチュニアを回想から引き戻したのは、いつも通り威勢のいい親友の声。
そして、彼是数十分食べ続けているのに一向に減らないポッキーの箱の山である。勿論、察しの通り、この山を築いていったのが先程出てきた彼女たちの先輩、イチだった。

「しかも最初から箱が開いてるのよね……なんでなのかしら?」
「知らないわよ、さっさと置いて出てっちゃうんだから。自分だって食べていけばいいのに!」
「ギグってば、イチにも居て欲しかったのね?」
「ち、ちがうわよッ!」

私はただ後片付けの責任の話をしてるの!と普段になく赤い顔で言うギグルスを、照れない照れない、と宥めながら、ペチュニアも一つ、チョコ菓子を摘む。本来ならば、開封済みの食べ物など不清潔さを感じて食べられたものではないのだけれど。

「…………」

『衛生には気を使ったから』
と、真っ直ぐに見上げて来た黒い瞳を思い出しながら、彼女はポッキーを口にする。

「ま、いいわ。食べきれなかったらガドルスに押し付ければいいもの!」

すると諸々の心の決着が着いたらしく、ギグルスが清清しく頭のリボンを揺らしてみせた。

「あら、一緒に食べてあげないの?」
「ペチュこそ、ハンディとポッキーゲームしなくていいの?」
「しないわ、だって不潔だもの」
「……………………そう」



(どうかしたの、ペチュ?)
(……今、誰か覗いてなかった?)
(えぇっ、ストーカーとかじゃないでしょうね!?)
(分からないけど……でも入って来なかったってことは)
(そうね、ナッティは除外ね)



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