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□元拍手十二月
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「『サンタさん』……?」


がしゃがしゃがしゃ、がっしゃがしゃがしゃ、がしゃん。
オレの手が止まると同時に、泡立て器とボウルが鳴らす独特な雑音も止まる。
それに代わって、冷却のために下に重ねた氷水が少し溶けたのか、カランと寒々しく音を起てた。

「う、うんっ、あ、クリーム!かたまった?」

作業を止めた言葉を発した張本人、フレイキーが、座卓と向き合ったままソファに座るオレを見上げた。
質問に答えるべく右手を少し上げてみれば、無駄にしぶとい生クリームはケーキをデコレーションするにはやや液状が過ぎるようだ。

「まだ、かな。『ツノが立つまで』って言われたし……フレイキーは?」
「んーと、んと、もちょっと……あ、イチ、ほ、ほっぺにクリームついてる」
「え、右?」
「ううん、ひだり!」

色鉛筆を持ったまま身振りを見せるフレイキーに従って、手の甲で拭ってから舐め取った。甘さは申し分ないが、やっぱりまだ少し水っぽい。
今更ながら、諸々を忍んで英雄に電動泡だて器を借りに行くべきだったかと反省する。それともフリッピーにでも。……いや、でもあの二人は腕力があるから電力には頼っていないという可能性も十分にある。やはりオレも自力で頑張ろう。











寒さの身に染みる風が吹くようになって久しい十二月。
オレとフレイキーは、綺麗好きの青色と大きなリボンの桃色、つまり女の子たちに呼び出され、ペチュニアの家で『お手伝い』をさせられていた。
何の手伝いかといえばそれは、フレイキーが今一生懸命になって書いている招待状と銘打ったカードの見出し、【クリスマスパーティ】、の、である。どうも毎年開催されているらしいのだが、勿論の事オレは初めての参加だ。恐らくそれもあっての呼び出しなのだろうが、せっせとカードを作成する小さな親友と違って、パーティの準備と言われてすぐに何か行動を起こせる程オレは優秀な人材ではなかったようだ。結局、クリスマスケーキの試作品なるものを作る、と言い出した女の子二人に、根気を買われて生クリームのホイップ係を任命されているのだけど……どうもそれすら危うい。
因みに当のペチュニアとギグルスはキッチンに篭って土台のスポンジを作成中だ。

……時折聴こえてくる「キャー」という声が、悲鳴ではなく歓声であることを祈る。


「それで、何の話だっけ……サンタクロース?」
「うんっ」

無邪気に頷くフレイキーの手元では、成る程、赤い服を着ているらしい人影が描かれていた。

「も、もしかして知らないことだった……?」

聞き返した言葉に怪訝の響きでも混じったのだろうか、不安そうな声と共に、座卓を挟んだ向かい側で小さな手が動きを止めた。
元記憶喪失ということになっているオレは、姉の記憶を継いでいるため元から知識関連で困る事は少なかったのだが……逆に言えば姉の記憶しか継いでいないため偶に驚かれるほど常識的なことを知らなかったりする。例えば、明文化するまでも無い慣習とか。
しかし、今回はこれ以上フレイキーを困らせることにはならなさそうだ──少なくとも無知と言う意味では。

「いや、知ってると思う。……クリスマスにプレゼントをくれる人、だっけ」
「そうだよ!でもね、ボクは夜は寝ちゃってて気がつかないから、代わりにクッキーとミルクを置いておくんだよ!」

そうしたらね、サンタさんが食べてくれるんだ!朝になったら、お皿とコップが空っぽで、枕元にプレゼントが置いてあるんだよ。
どこまでも無垢に笑うフレイキーに、オレは内心が透けやしないかと若干気を使いながら尋ねた。
サンタクロースの正体って、確か……。

「えっと、毎年来るの?」
「うん、あ、でも去年は……、ボク眠るまえに死んじゃったから……」

ボク、てゆか、クリスマス会が失敗してみんな死んじゃったの……。
思い出しでもしたのか悲しそうに呟き俯く赤毛は、しかし次の瞬間ぱっと上を向く。

「あっ、でも次の日代わりにフリッピーがね、ボクにぬいぐるみ買ってくれたの!クッキーも食べてくれたよ!」
「そっか」

なんだろう、その答えがオレの中の全ての質問に結論を出している気がする。
つまり、フレイキーの言うサンタって元々──、……まぁそうやって考えていることをそのまま口に出す程迂闊ではないつもりだが。

「今年も来てくれるといいなぁ……ボク、ちゃんといい子だったかなぁ」
「……フレイキーは、いい子だよ。もし来なかったらそれは、きっとサンタのミスだ」

言えば、フレイキーは一瞬目を見開いてから、えへへ、と笑う。やや照れたように。
オレはそれを見て、相変わらず可愛いなとか、それはフリッピーだって喜ばせたくなるだろうなとか、オレだってこの笑顔が大好きだからなとか、
色々考えた結果、何も言わずにその頭を撫でた。



(で、できたよ!)
(なら、先に配りに行こうか?オレも手伝う)



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