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□しりとり
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U保健室 意図的言葉選び
 @盲目と鈍感


「モールってばまぁたなんか読んでるーう!見えるのっ?」

相変わらずノックも呼びかけもついでに聞き耳も無しにノーモーションで引き戸を開け放ち、失礼千万にデリカシーの欠片もない文言をぶん投げてきた同僚に対して、モールは珍しく杖を振り上げることをしなかった。
代わりに、

「五月蝿い」

と、吐き捨てながらデスクのペン立てに並ぶボールペンを無造作に一本引き抜き、……投げた。

「ひどい!!てゆか怖っ!!」

がつんッ、と筆記具に有るまじき音を起てて窓枠に突き刺さるペン先の、僅か数センチ横の耳を庇いながら喚くランピーに、降りかかるのは毎度ながらの冷たい視線。

「もう五月蝿いと言うのも飽きてきたんですよ」
「だからその微妙なメタ発言止めなよモール」
「そもそも貴方、職員室へ生徒を呼び出していませんでしたか」
「呼び出してたけど帰しちゃったよう、僕説教とか向いてないしぃー」
「確かにお前に道理を説く資格はない」

ぴしゃりと放たれる辛辣な言葉に挫けないのは、もはや慣れているのかそもそも聞いていないからか。

「ところでさぁ、イチちゃんがシフティとしりとりしてたんだけどっ」
「……それはまた、随分と大人しい」

保険医が養い子とその悪友を思い浮かべ、ついでに彼らの普段の『遊びっぷり』まで思い浮かべて一言添えれば、覗き見教師はやっと後ろ手にドアを閉めた。

「だぁよね!って、ゆーことで、しりとりしようっ?」
「全般的に意味が分らない。了承する訳無いでしょう」
「えぇーそんなのつまんないよう?ほらっそんなの読んでないでっ!何?本?……ねぇ見えないのに読むの?」
「お前に関係ないだろ、ちょっと──返せ」
「だいじょぶだいじょぶー!終わったら返すよぅ?」


にへらっ、と笑うその笑顔は大抵その後歪む事になるのだが。だから、慣れているのかそもそも気にしていないからか……それとも学習能力が無いからなのか。

◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆


「しりとりっ」

「……臨終」
「うー、梅干し?」
「愁傷」
「んんー、海!」
「身罷る」
「……るそー」
「卒去」

「モール……。ま、いーや、えーっと夜店っ?」

「逝去」
「ん、んんー用紙?」
「死没」
「えぇー、っとぉ……つくえー」
「永逝」
「い、『いいちこ』!」
「薨去」
「……用事ぃ」
「成仏」
「積み木っ!」
「急逝」

「…………石」





「──死ね」
「ごめんなさい!!」

【end】

(本返すからぁ、許して──ちょッ杖、結局!!?)

やたら語彙力の高い擬似親子
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