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□元拍手十一月
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HTF学園の文化祭は、流石は私立と言うべきなのかそれなりに規模の大きなお祭りである。

特に日取りが全く同じである高等部と中等部の校舎は両者ともこの行事のために解放され、各教室は創作品の展示室や模擬店へと様変わりする。普段は許可制である生徒以外の一般客も立ち入り自由、地元の住人や保護者の見学は勿論、聞くところによれば他校の友人を招く生徒も多いらしく、毎年廊下は実に多くの『お客さん』で賑わっていた。
そんな秋の一大イベント。

──学園祭が、今年も始まる。






例外なく、学園の敷地内全てのスピーカーから聴こえたスプレンディド……生徒会長の開幕宣言と共に、体育館では吹奏楽部の有志によるマーチングバンドが演奏を響かせ始めた。たった今から数日に亘り開催される、秋の文化祭の本格始動である。生徒達はそれぞれクラスや部活動での展示や、発表の持ち場へ走る。例えば劇なんかの出し物は時間が決められているが……気の早いところでは、一年のお化け屋敷はもう客の呼び込みを始めているらしい。

そんな中、

「なんで、なんだろーな……」

黒い燕尾服に深緑のネクタイ。
髪を片方撫で付けて、執事服を完璧に着こなしたシフティは更衣室帰りのオレを見るなりどこか遠い目をして呟いた。
そういうオレとて、今は普段着からは程遠い衣装に身を包んでいるのだが。

紺の襟付きワンピースに白いエプロン。そして個人的にあまり良い思い出のないフリルだったかレースだったかの飾りも少々付随している。まあ、所謂メイド服というやつである。

「……いや、具体的にどうっつーか……ホントなんでなんだろーな」

そんなオレを見て、緑の執事は更にもう一度呟いた。若干の諦観の混じった声音で、わざとらしいまでの駄目押しである。

「いや、何でって、なにが」

何となく、予想はつくが。
問い返したその瞬間、背後でガラリと扉の開く音がした。振り向けばそれは、雑な動作で教室に入ってくる、同じく更衣室帰りのリフティで。数分前の兄の行動をなぞるようにオレの姿を見咎めて、そして弟の方は言葉を濁すこともなく直接的に言い放つのだった。

「うわっ! びみょう!!」

というか、言うに事欠いて微妙って。


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