長編

□順応
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公園のベンチで黄昏ていたら、フレイキーがやってきた。隣を譲って二人でぼけっとしていたらペチュニアとギグルスに襲撃された。『お買い物』に行く途中らしい。元気そうで何よりだ。

「イチったら、あなたなんだかご隠居さんみたいよ?」
「まだ二十年も生きてないはずだから大丈夫」
「だからみたい(、、、)って言ってるじゃない、フレイキーと二人で《おじいちゃんと孫》みたいになってるわよ?」
「……ペチュニア、ボク孫じゃないよ」

ひらりと視界の端に青いワンピースの裾が揺れた。
ペチュニアは(ほつ)れ毛を掬って耳に掛けながら、座り込んでいるオレ達に視線を合わせるように少し身を屈めて注意事を繰り返す。
ちなみに今はその後ろで手持ち無沙汰そうにしているギグルスは、二人も一緒に来る?と聞いてくれたのだがオレもフレイキーもついていける自信が無かったので断った。

「あら、フレイキーまでそんなこと言って……イチみたいになっちゃうわよ」

どういう意味だ。
それは多分オレがよくしくじる冗談というやつなのだろうが、真に受けたフレイキーは恐らくオレに気を遣いあわあわと首を降りはじめた。気にしなくても構わないのだが。すると、ふとペチュニアが何かに気づいたように、顔を顰めるとフレイキーに近づいた。顰め面と言ってもいつもの大工ほどではないが、とハンディを思い起こして見ていれば、ペチュニアの細い指がそろりと伸びて赤い髪に届く直前で止まる。

「な、な、何かな?」
「フレイキー、あなたまたお風呂に入らなかったわね」
「ひぃっ……!」

静かに凄むペチュニアと怯えるフレイキー。
何の話だ、と視線を向けると、ギグルスは肩をすくめて「フレイキーはお風呂が大の苦手なの!」と言った。放っておいたらいつまでも風呂なしで過ごすらしい。主にペチュニアやフリッピーが放っておかないとのことだ。ピンク色の短いスカートを穿いて、大きなリボンを揺らすとギグルスはそのまま思いついたように言い募る。

「髪も起きてきたままでしょ」
「ふぇ!な、なんでわかるのぉ……」

ボサボサよ!と、人差し指を突きつけながら答えを明言している。

随分とはっきり物を言うもので、フレイキーの方は身(じろ)ぎが加速してきている。こういう時にはどうしたものかと小さな頭を見下ろしていれば、どこからか短い溜息が聞こえた。「困らせちゃったわね」ペチュニアはそう言うと、持っていたハンドバッグから何かを取り出してフレイキーに持たせた。

震えに取り溢しそうになったそれを小さな掌ごと下から掬う。

「……櫛?」

そういえば、フレイキーはいつも髪の毛を垂らしたままだ。


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