運命の人

□第三話
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朝というよりも夜中。

クリスは目を覚ますと窓を開けた。

土砂降りだった雨は、霧雨に変わっていた。

手早く身支度をし、そっと戸を開ける。

そして静かに、誰にも見つからないように、宿を出た。

マントを体に巻き付けフードを深くかぶると、宿から持ち出したランプの小さな灯りを頼りに、まだ闇に支配された道を駆けるように進む。

辺りがそれなりに明るさを増した所で、クリスは一旦足を止めた。

村はとっくの昔に出てしまっている。

後ろを見ても誰もついてきていない。

クリスはふぅと小さく息を吐き、普通に歩き始めた。

納屋のような所があれば、そこで朝食を取れるのに、とクリスは辺りを見回しながら歩く。

背中の袋の中には宿で手に入れたパンとチーズ、水の入った水筒が入っている。

もちろん、魔法で台所から取り寄せた。

誰にも見つからなければ魔法を使っても構わない、と父親から言われていた事を実行したのだ。

盗んだ訳ではなく、部屋に金貨も置いてきた。

もちろん古ぼけたランプの代金もあるので、少し多めに。

宿の主人は釣りを返さなくて良かったので、喜んでいるだろう。

空にはまだグレーの雲。

霧雨の中食事をするのは勘弁だ。

それとも適当な場所で火を熾した方が良いかも?

でもそれだと見付かってしまうかもしれないし………

幸いな事にまだお腹は減っていない。

今はあの村から離れた方が得かもしれない、とクリスは考え直した。

宿にいた男達には自分の目的地を知られていると思って間違いない。

だったらクリスがいない事に気付いた人間が追ってこないとも限らないのだ。

少なくとも2、3日は見付からないようにした方が良いかも。

そうすれば諦めるだろうから。

クリスは道を外れ、森に入った。

方角を誤らないように気をつけながら森の中を進む。

マントの下の右手は剣に触れている。

杖にするか悩んで、結局剣にした。

熊でも剣で何とかなるだろう、と考えたからだ。

山賊相手でも事足りるはずだ。

それなりに腕は立つのだから。

魔法使いだと知られた方が厄介だ。

時間が経つにつれ霧雨は止んで、代わりに薄日が差して来た。

そろそろお腹も減った。

倒木を見付けたクリスは辺りを見回して、荷物の袋から鹿革を出して倒木の上に敷くとそこに座った。

パンを千切り、食べる。

余り長くじっとしていては体が冷えてしまうので、早々に食事を終え、また歩き出す。

クリスは目と耳をフルに使いながら森の中を進んだ。

辺りが暗くなり、もう明かりなしでは進めない、となってからクリスは足を止めた。

大きな木の傍に、乾いていそうな枯れ枝を拾ってきて山を作る。

クリスは火打石を使い、火を熾した。

枯れ木は、ぱちぱちと勢いよく燃える。

クリスはまた鹿革を出して火の傍に座り、パンとチーズだけの食事をとった。

食事を終えると周りを確認するふりをしながら結界を張る魔法をかけ、鹿革に包まって横になった。

何かが結界の中に入れば目が覚める。

結界なしに森で眠る程図太くはない。

こっそりと焚火に一晩中燃え続ける魔法をかけるのも忘れなかった。

その日、追手はこなかった。





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