運命の人

□第六話
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クリスの心配は杞憂に終わった。

宿を出て数日。

小さな村はあったが、そこに宿はなかったから。

おかげで金貨はほとんど減る事なく、クリスとディヴィットは野宿しながら旅を続けた。

幸い天気は悪くなかった。

ただ日が落ちると風がなくても寒い。

二人は日が暮れる前に野営地となる雨風をしのげる大きな木を見付け、薪を集め火を熾した。

本人が言っていたように、ディヴィットは寒いのが苦手だった。

歩いている時も、風が吹けばマントで身を包んだ。

だから二人は寄り添って歩き、休んだ。

夜寝る時に必要な火の番は交代でする事にしたのだが、その休み方に最初クリスは抵抗した。

地面に直接横になると体温が奪われるから、起きている方が眠っている方を抱きしめるようにしよう、とディヴィットが言ったからだ。

暖をとれる物は2枚。

クリスの持っていた鹿革と、ディヴィットが持っていた毛布。

ディヴィットは火の傍に鹿革を敷くと片膝を立てて座り、毛布を被り、腕を広げた。


「さぁ、来い」


来いって………

クリスは頬をひきつらせた。


「早く来いよ。ゆっくり寝て、んで、俺と交代してくれ」


もう月が上り始めている。

数時間おきに交代するのなら、休むのは早い方が良い。


「ぃや、それはどうなの?だって、どう考えても密着し過ぎでしょう?だって、私は女で、あなたは男で、私は男の人と触れあった事なんてほとんどないんだから」


クリスはそう言って拒否した。


「でも、これが一番温かいんだ。俺、あんたが女だなんて思ってないし。人の体温ってのは、意外とバカに出来ないんだぞ」


ディヴィットはクリスの腕を引いた。


「ぃや、でもね。やっぱりどうかと思うのよ」

「つべこべ言わずに来いって。早く寝てくれなくちゃ困るんだよ」


クリスは抵抗したが、力では敵わない。

広い胸に飛び込むような形でクリスは倒れ込んだ。

すぐにディヴィットが倒した足の上にクリスを乗せ、抱きしめる。

ディヴィットに抱きしめらると、想像以上に温かった。


「あったかい」

「だろ?んじぁ、寝ろ」

「うん。おやすみなさい」


クリスは目を閉じた。

ディヴィットはクリスが眠れるように、と思ったのか、優しく頭を撫でる。

クリスの耳に、とくんとくんと、自分のものよりも少し早いディヴィットの鼓動が聞こえる。

森で一人野宿した時よりも何故か安心できた。

結界もないのに。

不思議。

クリスは服を着ているのに、家のベッドで休むのと同じくらい、ゆったりとした気分で眠りに引き込まれた。




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