Sleeep

□おやすみプリンセス
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カチカチと音を鳴らす壁掛け時計。先ほどから何度も確認するけれど、1分、2分と経つのも凄く長く感じる。

暗い空間の中でもわりとはっきりしている視界に暗幕をかけるように瞼を閉じても眠気がこず眠れないまま。
そうだ、私は眠れないのだ。

「なんでー…」

枕元に置いてあるスマートフォンを指でぱっと開くと、左右にスライドしてアドレス帳を表示する。
着信の一番上に必ずある名前。その名の持ち主に会いたくて電話をかけるべきかとずっと悩んでいる。

でももう夜中の1時だし明日も部活の朝練あるから寝てるよね、と頭では分かっていてもうーんうーんと唸って悩む。会えなくても良い、声を聴けるだけでも嬉しいから。

よし!怒られるの覚悟で1回かけて出なかったら寝てるとして切る!そうしよう!と発信ボタンを押そうと指を添えたその瞬間、窓ガラスになにかが当たる音がした。


「なまえ?なまえ〜」


こんな夜中にそんな事があって不気味だと思わない方がおかしい。でも音は止まないまま、なにかがコツコツと当たっている。
恐る恐る近付いて耳をよくすますとそれはとても聞きなれた声だった。

「梓!なにやってんのそんなとこで!」

ちらりと見えた黒髪に見覚えがある。窓を開けて見下ろすと電話をかけようか悩んでいた相手がそこに立っていた。

夜中だという以前にここは職員寮だってことを忘れかけていた。見つかったりしたら…


「今から行くからそこ開けておいて。あと退いて」

は?と聞き返す暇もないまま梓は寮の前に立っている木を蔦って窓の前までやって来ていた。野生の猿じゃあるまいしとつっこみたいけど今はそれどころではない。


「退いてって。入れない」

「誰が入れるって言ったのよ!ばか!」

「勝手に入るから良いよ、もう」

私の言葉なんてまるで聞こえてなかったのか、止める隙なく木と窓の間を勢いよく飛んで入ってきた。避けるタイミングを失った私を下敷きにして。


「痛い痛い痛いよ梓いたい」

「あぁ、ごめん。覆い被さるのも悪くないかなと思って」

「いやあんた今飛び乗って来たじゃない!意味が違う!」

「あんまり大きな声出すと聞こえるんじゃない?」

それをお前が言うのか、何て言えばまた嫌みをいうんだろう。いつもならこんな強引なことしないのに急にどうしたと言うんだ。

「電話かけようとしたの分かったの」

「分からないよ。だから来たんだけど」

テレパシーでも使ったの?と言うと梓は僕を何だと思ってるのと言い返してきた。いつもの梓…だよね。

「急に来たのは、なまえに会いたかったから。そんな事まで言わせるつもり?」

「先生に見つかったらどうすんのよ、あと変なとこ触んないで」

「そんなリスク負ってでも会いたいって言われても嬉しくないわけ、なまえは。」

得意気に笑って梓は口を近づけてきた。帰る気は無いんだろう、触れた唇と顎に添えられた手。間近にある彼の身体からはほのかに石鹸の良い香り。


「……なまえ?」

「ごめん梓、もう限界かも…ん……」

「え?もしかしなくても寝てる?おーいなまえ」

ゆらゆら揺れる視界と薄れる意識。なんだか安心して、突然の睡魔がこんばんは、なんてタイミングなんだ本当。

「……あずさ…………」

「…おやすみ、なまえ」

目が覚めた時、梓は僕が眠れなかったとベッドに背中を預けていた。






*眠りに落ちるそのときまで傍にいてほしい






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