Sleeep

□一緒にかえろう
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 「3、2、1……0!明けましておめでとう!」

月子の元気な声がして、ふと目を開ける。ここはどこだっけとぐらぐら歪む脳を回転させて思い出した、そうだ年越し忘年会。
みんな忙しいけど年越し一緒に過ごそうなんて贅沢言ってたら決まったこのごちゃ混ぜ企画。新年会、忘年会、あと年越しに同窓会全部まとめてやろうと集まったんだ。そうだそうだ…っ!

「明けましておめでとう…って大丈夫かみょうじ?」
「わっ、なまえさん顔真っ赤だよ」

金久保部長に宮地くんの顔が滲んで見える。大量のアルコール摂取のせいだと思うけど、とても気持ち悪いし吐きそう。なんでこんなに飲んだんだろうわたし。

「そーいや犬飼は?来てないのか?珍し」
「確かに犬飼先輩見てませんね」

白鳥と小熊の声もする。あ、そうだよ隆文は…わたしと喧嘩したんだ。

「隆文来ないよ〜わたしが家出したから〜」
「えぇ!?」

月子ちゃんを筆頭に、部のみんながわたしを見て声をあげる。学生の時と変わらないなぁこのノリ。でも隆文は居ない。わたしが、怒らせたから。

「家出ってどうして?なにがあったのなまえちゃん」
「…わたしが怒らせたの、隆文を。隆文が浮気したからもう家出するって言ったら勝手にしろって」
「浮気ぃ?犬飼が?あのみょうじを名前で呼んだだけで激怒した隆文が?」

学生時代からずっとの付き合いだから皆には公認だし、平和で喧嘩もなく今では同居している。でもそれも過去の話なんだよね。
次のお酒をと店員さんを呼べば白鳥にもうダメだと言われ理由を話さざるを得ない状況に。なんだか酔いも覚めてきたなぁ

「大学から帰ってくる度仲が良い後輩の話ばっかりだし、香水臭いしわたしに触らなくなったの。だから浮気してると思って問い詰めたら怒って喧嘩に…」
「…弁解の余地なしですね」
「犬飼くん可哀想…」
「確かに隆文に何か言う隙は与えなかったけど、何も分かってないって言われて黙ってられないよ」

話すうちにだんだん言葉が現実味を帯びてきて、目頭が熱くなって涙が込み上げる。あんな風に怒らせたのはわたし、なのに。
“俺が浮気してると本気で思ってんのか、お前は”なんてそんな言い方しなくても良いじゃない、とか不満も浮かぶし…

「おい、なまえ起きろ、おーい」
「ふぇ…隆文?あれ?」
「お前さ居酒屋で眠りこけるかフツー。おぶってやるから、ほら」

見えたのは緑の頭に広い背中。わたしはこの背中をよく知っている。白鳥によると、カウンターで寝こけてしまったわたしをどうしようも無いので隆文を呼んだらしい。
自分では歩けないし隆文がどうしてもと言うので背中に体を預ける。ぐん、と起き上がった隆文の背中からはいつもより高い目線で世界が広がった。

「ごめんね隆文、ありがとう」
「…いいって。あそこでキレた俺も悪いしな、スマン。けどもう二度と俺が浮気してるとか考えんなよ?」
「それはだって…うぅ………分かった」
「なまえが思ってる倍くらい俺はなまえを愛してるよ、よーく覚えとけ」

飲みすぎたせいか頭に鈍痛が響いて、居心地の良い背中に寄り添っているおかげで睡魔が襲ってくる。隆文がめったに言わないような殺し文句を言ってるのに!勿体ない!

「大体お前は変な心配しすぎなんだよ、っておい聞いて………あーぁ」

規則正しい寝息が聞こえ、嗅ぎ慣れた匂いが首にまとわりつく。俺のことを疑うけどそれ以上にいつだって無防備なお前が心配でたまらんっつーのに。

「良い夢見ろよ〜…今年もよろしくな、なまえ」

夢のなかでふわり、初夢は隆文と仲直りする夢で愛してると言われた気がした。わたしもよ、と返そうとして夢は醒めてしまったけれど。





*背中のぬくもりを忘れないように、ぎゅっと




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