Sleeep

□冬の日、きみは
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 雪が積もる頃、彼は帰って来る。桜が散る頃、彼は帰って行く。
いつまでも変わらないその道理は私の神経すべてを蝕んで。

「おかえり、錫也くん」
「なまえ!ただいま。久しぶりだな」

うん。そう短く返事をして姉と錫也くんだけを残して私は自室に向かう。
私が居たら、きっと気を遣うだろうし。

「ごめんね、昨日まで帰って来る帰って来るってはしゃいでたのに」
「…良いんです。明日また来るってアイツに伝えておいてください」
「本当?ありがとうね」

玄関の扉が閉まる音がして急いで布団に潜った。すぐに帰ったと言うのも寂しいのにどうして素っ気ない態度取ってしまったんだろう。そんな後悔をする間も無く、ノックすらされずにドアが開いて姉が顔を出す。階段部分が吹き抜け仕様の家だから廊下から覗いてると全部丸見えなんだ。

(……お姉ちゃん、きっとまた要らないこと言ったに違いない…)
「なまえ、さっきの態度何なの?」
「……別に」
「別にじゃない!錫也くん自分の家帰るより先にうちに寄ってくれたのよ?」

布団すら剥がされ、正座させられお説教。
だけど怒るのも当然だ。新潟からこっちに帰省してくる前、メールをくれた時に私の方から"一番に会いに来てね"と送ったのに、あの態度。
別にこれが初めてな訳じゃなく、錫也くんが遠い学校へ進学して帰省する度にこれの繰り返しで。

いつまでも素直に接することが出来ない私を、姉だけじゃなくて私自身も呆れてる。
でもしょうがないじゃん、目が見れないんだもの。声だって聞いたら最後。心臓が停止寸前だし、触れたりなんかしたら卒倒レベル。

すなわち、私は彼にゾッコンなんだ。
…若干認めたくはないけれど

「とりあえず明日にでも謝りなよ。夕飯にでも呼んであげたら」
「いっ嫌だよ無理!ありえない!」
「あっそ。そんなんじゃ月ちゃんに取られちゃうかもねー」

ジョークとも取れないほど現実的な嫌みを吐いてお姉ちゃんは部屋から出ていった。
月ちゃんに取られちゃうって言うか、錫也くんは昔から月ちゃんが好きなんだし…。
痛いくらい知っている真実を突きつけられて、なんだかなにもかもどうでも良くなった。

元から諦めている恋だけど、痛感するたび心のヒビが深まっていく。いつか壊れてしまいそうとでも思えてくる。

弱虫は弱虫なりに前を向けるようにと頑張っているつもりなのに、どうしてだろう。いつまでも視界は明るくならないまま。



*溶けない恋心を粉々に砕けさせて
(あなたから逃れたいの)




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