Sleeep

□もがくような恋がしたい
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少し長い。
※新潟設定はフォトジャニ小日山くんのプロフから。




 6時前、イヤホンからはお気に入りのバンドの曲が流れる。普段はしない鼻歌なんてふふん、と歌いながら最寄り駅を目指す。
そうだ今日の夜は寒いからおでんにしよう、確かスーパーは特売日だから。

「あ、定期切れてる」

新しく買うの忘れてたままで有効期限は昨日までになっていた。毎日同じ電車に乗ってるんだから忘れまいと思っていた矢先にコレだ。ほんと自分は何か抜けてるなあ。
駅の改札機で券を買って、あと少ししたら到着する電車を待つ。朝日も昇りきってない辺りはまだまだ真っ暗で、待ってるのも私だけ。

(勤務先が鬼畜じゃなけりゃ私だってまだ寝たい)
でもせっかく就活上手くいったんだし文句は言えない。あの苦労を水に流すなんて…!
視線を感じるな、と振り返ると駅のおばちゃんが笑っていた。私は一人で拳を握って身ぶり手振りしていたらしく、変人みたいだよねと笑ったら可愛いよってまた笑顔を向けてくれた。気遣いがなんだか恥ずかしい。

「間もなくー、…町行き……」

「あ。じゃ、行ってきます」

行ってらっしゃい、と返してくれるおばちゃんと手を振り合って扉近くに座って鞄から小説を取り出す。最近ハマっているミステリー物。

「…なまえさん、おはよう」

「……」

「なまえさん?」

挟んであるしおりを抜いて読み始める。次第に動き始めた電車には誰も居ない、誰にも邪魔されたくないような瞬間……ん?

「なまえさーん」

「えっ!!うわっ」

ページを捲ろうとした瞬間、イヤホンが取れて肩をぽんぽん。誰だよ非常識な…!あ、あれ?

「な、なんだ東月くんか…」

「イヤホンしてたら気づくわけ無いよな、ごめんごめん。おはようなまえさん」

「いやいや私こそごめんね。ていうか冬休みなんだよね?早くない?」

肩を叩いてきたのはいつも帰りの電車が被る近所に住んでいる(らしい)東月錫也くん。外見はかっこいいし、何やら料理とかも出来ちゃうみたいだけどそんな高校生居るもんなのか疑うところ。電車に乗っている以外で見たことないし…。彼女も居ないみたい、だし。

「あぁ、実は幼馴染みと天体観測に行ってたんだ。あそこだと見やすくて」

「錫也〜置いていくなよ」

そういえば星の専門的学校通ってるんだっけ。新潟にあるとか行ってたけど私は大して興味もなくて気にしたことなかった。
ひょこっと東月くんの後ろから銀髪の男の子が現れ、何ともまぁ高校生らしいやり取りを繰り広げていた。疑問は晴れたな…

「哉太、そんなに言わない。錫也、それと…」

「え、っと」

「月子!それに哉太、彼女はなまえさん。前に話しただろ」

「あっ、電車同じの人?初めまして夜久です」

「七海…っス」

つまり彼らは東月くんの幼馴染みか。女の子に至ってはただの幼馴染みに見えないけれど、ここは大人らしく振る舞おう。
(別に彼女居たって私には関係、無いし)

「どうも、みょうじです。よく東月くんから聞いてる通り美男美女だね?」

「ばっ…錫也お前どんな話してんだよ!」

「月子は確かに可愛いって言ったけど哉太のことイケメンって言った覚えは無いぞ」

「あれそうだっけ」

年下をからかうなんて意地の悪い大人だ、と私が今高校生なら思っただろう。いざ成人して働いてみると感性なんて変わるものだけど。

ちょうど電車は職場に着き、時刻も良い頃。東月くんと帰り以外で会ったことなかったのにどうして今日は行きで会ったんだろう。

「俺たち、この電車からまた乗り継いで学園に戻るんだ」

「え、」

「冬休みはまだあるんだけど課題とかは向こうで済ませよってなったので」

月子ちゃん、で良いのかな。彼女も続いて話す。そっか、帰省だからずっとは居ないものね。冬休みって言ってたんだから当たり前、相手は高校生なんだから。

「そっか〜青春しろよ若者!」

「なまえさんまだ22歳って言ってなかったっけ?」

「永遠の16ですー。」

こんな会話もこれで最後。もう電車も降りないといけないし、お別れだ。

「社会人は働いてくるよ、頑張れ高校生」

「あはは、じゃ、また夏休みにでも」

「うん、じゃあね」

三人を尻目に私は電車を降りた。ギリギリだったみたいで、すぐ扉は閉まり発車の知らせ。
これから仕事なのに目頭が熱いような気がするの、なぜだろう

電車が動く音と共に足を一歩、二歩と進め職場を目指した。振り返らず、忘れるように。

「………変なの」

お気に入りのバンドのナンバーは人気のバラード。別れがテーマで、僕たちは結ばれないんだ的な曲で、空しく頭の中で悲しみを歌っていた。
きっとただの高校生じゃなかった、私は彼を子供だと思ってなかったんだ。
 



*今更分かったって彼はいない





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