Sleeep

□そんなふたりの出会い話。
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 3月が終わり、桜が満開の4月1日。新年度へ変わって今日、私は晴れて高校1年生だ。

「…この学園でっかいなぁ」

地図と荷物を抱えて学園の門の前に仁王立ち。
実家があるのが余りに田舎すぎて他の新入生よりすこし早めに寮へ入ることになったは良いけど新潟までの道のりは長くてもはやクタクタ。

馬鹿にならない位の荷物も腕が取れそうなほど重たくて正直ここまで来れたのは奇跡に近いと自分でも思う。春休み中だし学校探検だ〜!なんて期待もしていたのにこれじゃ台無しだ。

「とりあえず入らないと。もうこれ持ちたくないけど…仕方ないよね…」

ギィ、と鈍い音を立てて門を押し開けるとさらにその向こうに聳える(そびえる)校舎と寮。誰かあのシャーッて走れる自転車みたいなのくれませんかさすがに歩けません。疲れましたよ私は。

「ひえええ噴水!すごいな本当!」

ある程度はパンフレットで見ていたけれど紙面で確認したものとは違いすぎる現実に目を丸くする。春休みで良かった、私が一人言うるさい人間なのがバレてしまう。思ったことを口に出しちゃう癖は昔からで直りそうにはない。

「校舎の後ろに寮で、校庭と…」
「なぁ君、1年生?」
「え?」

広げた地図を眉をしかめながら指でなぞるといきなり背後から声を掛けられた。春休みじゃ無かったの!?と振り替えると相手は一人じゃなく数人、しかもネクタイの色が緑だからきっと去年1年だった人たち。切り替わるのは休み明けって説明会で言ってた気がする。

数人の先輩たちは皆ちょっと怖い外見でとても一筋縄でいきそうな雰囲気じゃ無いことは分かった。入寮の日にナンパ紛いに合う羽目になるなんて高校生を実感…出来るわけないよね。
どうしようどうしよう、それしか頭には浮かばなくて先輩たちは何やら話しているみたいだけど私にはそれを気にする余裕なんて持ち合わせていない。
(走って逃げるにも荷物は重いし…)

遂に先輩のひとりが私の方へ手を伸ばしたと同時に目を硬く瞑る。さよなら私の高校生活。まだ初日でもないのにナンパ紛いされた挙げ句これとか、運の問題じゃ済まなさそうだよ。
諦めたとき、伸ばしてきたはずの手が一向に近付かないことに気が付いた。あれ、なんで…

「理事長には言わないからさっさと消えなよ」
「きっ木ノ瀬!わ、分かったよ!」
「……………木ノ瀬?」

ゆっくり瞼を上げるとそこには黒髪で私より少しだけ背の高い男の子が居た。先輩たちに対する話し方からして彼も先輩、なんだろう。
怯えて行ったのはもしかしてさっきの先輩たちより怖い人だから!?嫌な想像が過る。

木ノ瀬と呼ばれた男の子は地面に放置されている鞄をちらりと見てそのまま校舎に向かって足を進めて行く。

「あの!ありがとうございました!」
「別に。気に食わなかっただけだから」
「わ、私新年度から宇宙科の1年になるんです!先輩は何科な、んです……か」

呼び止められた木ノ瀬さんは心底ウザそうな顔をしているのが嫌というくらい分かる。きっちり揃えられた前髪も彼の性格を表しているのか真っ直ぐ見据えるように視線をこっちにやる。

「宇宙科。木ノ瀬梓。」
「みょうじなまえです!よろしくです!」
「…寮の場所が分からないならついて来れば」
「は、はい!」

簡単なイラストで作られた地図を読むよりついて行く方が早い。冷たい口調をしているのに助けてくれたのは本当は冷たい訳じゃないはずだと言っているようにも思えた。冷静というか、ストイックというか。

「そっちの鞄貸して。」
「えっあっ…ありがとうございます」

決して笑ってはいない。でも滲み出る優しさになんだか勘違いしてしまいそうで、まだ入寮もしていないのにさっそく私は恋の欠片を拾っていたようだ。



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「なまえのこと嫌いだったら助けたりしてないよ」
「じゃあもしかしてあのときから私のこと…!?」
「さぁね。告白してきたのはなまえだったし。」
「梓先輩それはズルいですよ!」





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葛城ユキ様より「後輩夢主と先輩梓くん」リクエストでしたー!甘さ加減が足りなかったかな、とすこし不安ですが今の季節を参考にしたものにしてみました。梓くんはやはりどこまでもストイックであってほしい。自分が後輩だとデレるのに相手が後輩だと冷たい彼を素直にさせるのは至難の技です。もしご満足いただけなかった場合はお手数おかけしますが拍手よりご連絡下さると助かります。
ではフリリクありがとうございました!


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