Sleeep

□この腕はきみを求めてる
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「(好きだーー!!)」
「あ?何か言ったか、なまえ?」
「な、なにも言ってませんよ」

素直に伝えれたら、どんなに気が楽か。
悶々と頭を抱えていても私の目の前で書類と睨めっこしている彼は、気付かない。
きっと…一生…!

「一樹会長は鈍感なところありますよね」
「俺、なにか見落としてるか?」
「いやいや、書類の話ではないですよ決して!」
「じゃあ何の話なんだよ?」

生徒会室に二人なのを良いことに上げてみた話題。青空くんとかが居る空間の方が良かったんじゃないのかな、これは。

どこが好きかなんて誰かに問われても即答は出来ない。たまに掛けてる眼鏡姿も、
みんなを引っ張るリーダーな一面も、怒られてる様すらも愛しい。それだけじゃ足りないの?

うーんうーんと唸る私を横目に会長はまた書類へ意識を戻してしまった。
机一つの距離がすごく遠く感じられて、寂しい。秋を主張するかのような強い風で揺れる窓をひたすら眺めるしかできない。

「秋の風って冷たいです、よね」
「まぁ秋っつってももう10月終わるしな。肌寒く思うことは増えたんじゃないか」
「…何か怒ってます?」

ふと会長へ視線をもどすと、書類を置いてなにかを考え込んでるみたいだった。
私が変なこと口走ったからですか、なんておいそいとは聞けない雰囲気に唾を飲む。

伏せられた睫毛が妙に綺麗で、頭がくらくらする。毒薬みたいだ、恋心なんて。

「怒ってない。ただ、なまえの言ったことを考えてた」
「鈍感な会長のことですか?」
「……そこまで酷いのか俺は!」

だって、見つめてたって分からないじゃない。
さりげない質問も、勇気を出したアピールも全部、一樹会長は応えてくれないんだから。

私だけが独り善がりなのかな、もしかして。
分からん!と項垂れた会長の不抜けた表情にすら胸を高鳴らせて 馬鹿みたい。

「私はいつも一樹会長を見ていますよ、真剣な話。」
「お、おう。って、え?」
「意味分かりますか。好きなんですよ。ずっと。」

ここまで直接的な言い回しをしても呆ける様ならもう諦めがつく。
捨て台詞を吐くように口をつむぐと、顔を真っ赤に染めた茹でタコみたいな一樹会長の陰に覆われる。この、距離は、ずるい。

「な、なんですかこのやろう」
「ずっとか?俺のことを…その」
「好きかって?はい、ずっとですよ。生徒会に入ったのも邪な気持ちからです」

眩しすぎる位の笑顔で今日からお前は生徒会の一員だ!なんて言われても断れなかったのは、

実際それで間違ってなかったけれど、当時の私は彼に近付きたい一心しか持ち合わせてなかったから。

「告白されてすぐに俺もだ!なんて言えるほど俺は出来た奴じゃない」
「知ってます。混乱させるって分かってました、から言わなかった、のに」
「それでも…可愛い後輩が泣いてるのを見て見ぬ振りも出来ない」

淡く噛み合わない会話を進めているうちに流れ出したこれは、悲しみの涙じゃない。
ふられた訳でもないのに泣いてなんかいられない。

伸ばされた手を握ろうにも涙は流れて、宙に浮かんだままの会長の右手はただ行き場を失った。同情、されてるのかな。

「好きな人に受け入れらないのに、傍に居たいと思う強さは私にはないんです、」
「…俺はなまえに居てほしい。それじゃ駄目か…?」

伏せられた睫毛が重力に逆らって琥珀色の
瞳をさらす。
あぁ、そんな風に見られたら私は。

「好きです…一樹会長。これからもずっと」

可とも不可とも言わない会長は、やっぱり鈍感なのか触れてほしいことに気付かない。

空いていた右手に手を添えると、びくりと肩を震わせて返すように絡まる指。
もう、期待してもいいですか?



*勇気を出してやっとスタート。



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