Other
□僕を怒らせたいの? その勇気だけは褒めてあげるよ。
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『"嫌いじゃない"かー。』
課題用ノートにシャーペンを走らせつつ、溜め息をひとつ。
昨日風斗くんに言われた言葉がどうしても信じ難くて尚且つ嬉しくて。
まぁ嫌いじゃないイコール好きって解釈にはならないんだからって浮かれきった自分に言い聞かせる→いや、でも待てよなら普通?普通って何?普通じゃなくてそれはもうLoveでは?→いやだから待てry…のループまっ最中である。
受験シーズンで課題をこなすのは当たり前でその上受験勉強もしなきゃなのに、全くもって勉強なんか手につきやしない。
気付けば頭の中は風斗くんでいっぱい。いつもいつも。
『あー無理!進まない!』
たくさん並ぶ数式の書かれた教科書とノートを閉じて、勢い良くベッドにダイブ。ぼふん、と効果音が聞こえそうなくらい身体が跳ねて心地好い。
『好き、じゃないのかな…』
私はこんなに好きなのに。勉強も手につかない位思考を占領されているのに。
どうしてもあの言葉が脳内再生されて、その度胸は高鳴って…。
『会いたいな…』
会えば分かる…って訳でもないけど、咄嗟に出た本音。会いたい。会いたいよ…。
***
「おはようみょうじさん。」
『おはよう、朝倉くん』
うわあ今日も眩しい…。
私は登校早々に下駄箱でなぜか風斗くんと遭遇してしまった。
結局昨日はあのまま眠れなくて、目の下は隈だらけで顔色も悪い最悪な状態だってのになんてタイミングだ…。
「寝不足?隈すごいよ?」
『受験勉強はりきっちゃって…』
「はは、なまえさんって頑張り屋なんだね。」
寝不足になって良かったなんて思ってないですハイ。会いたいってあれだけ思っていたのに、こんな顔晒す位なら会えない方が良かったな…はぁ。
「じゃあ僕職員室行かないとだから。また教室でね」
『あ、うん…またね』
そのまま風斗くんとは別の方向に歩こうとした瞬間、すっと肩に手が伸びてきた。
「保健室、行って少しは寝れば。」
左耳にかかる息。いつもより近い風斗くんとの距離。
え、ちょ、近すぎやしないかい風斗くん…?
「じゃ。」
何事も無かったかのように離れていく身体。
思わず私は振り向いて。
『あ、ありがとう!保健室…行くね』
向けられた背中にそう呼び掛けると、意地悪な笑顔を浮かべた風斗くんが私の方に振り返る。
「ははっ、そんくらいで礼とかみょうじさんってかなりおめでたいね。」
意地悪な笑顔にぴったりのセリフに、自分の頬が引き吊るのが分かった。
うん、まぁ彼はそういう人だって知ってるし、ね。ははは。
教室への道のりである階段に足を伸ばすと、さっきの距離に今さら恥ずかしくなってきて、その場に附せてしまった。
きらきらな笑顔を浮かべたかと思うとあんな風に意地悪言ってきたりするのに。ばくばくと鳴る心臓は未だ早いまま。
…あぁもう、本当にたちが悪い。
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